NIジャパンブログ

【翻訳記事】社会を刺激する人々:10歳のトランスジェンダー活動家チャーリー・ラウティアン-リッケルト


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パレードの先頭を行くチャーリー
(NI497p33)


トランスジェンダーの権利のために声を上げ、私たちを勇気づけてくれる10歳を、シャン・グリフィスが紹介する。

びしょ濡れになったチャーリー・ラウティアン-リッケルトは、赤いオープンカーに乗ってオタワ・プライド・パレード2016の先頭を進んでいた。「あなたを愛している、チャーリー!」と叫ぶ多くの人々に向かって、チャーリーは熱心に手を振っていた。今年大活躍したチャーリーが参加したパレードは、激しい雨をものともせずに進んだ。

青い花柄のドレスを着たチャーリーは、彼女が自分で認識したようにどこから見ても少女に見える。しかし彼女は男児として生まれ、弱冠10歳にしてすでに一人前のトランスジェンダー活動家だ。

「私はただ、メッセージを伝えたいのです」と彼女は説明する。「LGBTQ[訳注:レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィアの頭文字で、性的マイノリティーを示す言葉]の周囲にいるそうでない人々の中には、LGBTQコミュニティーのことを本当に恐れていたり嫌っていたりする人がいくらかはいます。私たちがどんな人間なのかを知ってほしいし、私たちの近くでも快適に思ってもらえることを分かっ
て欲しいだけなのです」

聴衆への基調講演でチャーリーは語りかけた。「みなさん、私は私が大好きな人々、性の多様性を認めるコミュニティーを守りたいのです。私が感じているような幸せな気持ちを、彼らにも感じて欲しいのです。そして、いかなる性であろうとも、彼らは普通で、すばらしい贈り物であることを知ってほしいのです」

チャーリーは史上最年少でパレードのグランド・マーシャル[訳注:パレードの先頭を走る車から観衆に手を振る役割]という栄誉に輝いたが、この選択は当然のことだ、とオタワ・プライド・パレードの責任者のタミー・ドップソンは述べた。この役割は、「政策提言や教育を通じて彼らの暮らしを向上させて」彼らが十分に生活を楽しめるよう刺激を与えた人物に与えられることになっているのだ。

「彼女はただの10歳ではありません!」とドップソンは言う。「今後20年で彼女がどのような人物になるのか、私は楽しみです。彼女は10歳とは思えず、非常に落ち着いています。彼女は、彼女のような人々をより安心させ、孤独感を和らげています」

チャーリーへの注目は急上昇している。彼女は2年前、弱冠8歳の時に、カナダの上院議会で行われたトランスジェンダーの人々を差別とヘイトクライムから守る法案の議論の場に、両親に付き添われて参加した。しかし、米国でもそうだったように、カナダでもトイレをどうするかが政治的課題に浮上した。保守党が提出していた修正案は、トランスジェンダーの人々に対し、出生時の性別に基づいてトイレを使用するよう制限する内容だった。チャーリーは憤慨したが、人権NGOのアムネスティ・インターナショナル、ジェンダー・モザイク、その他のLGBTQグループの代表者たちと一緒
に座り、「オリンピックの時にするように聖火を掲げ、私の声を彼らの声に加えるようにと心を動かされました」という。

彼女は、カナダ議会前で行われた「オキュポッティー(Occupotty)」[訳注:occupy(占拠)とpotty(おまる)の造語]と呼ばれる抗議活動で、「私たちをトイレに行かせて」という歌を歌い、いくつもの便座が置かれた前に立って集まった人々に、トランスジェンダーにとってトイレの問題がなぜ重要なのかを語った。この抗議活動は全国的に注目を集めた。

トランスジェンダーの人々は、そうではない人々よりもトイレでは強い恐怖を感じる、とチャーリーは言う。「とても安全とは言えません。もし私が男子トイレに行ったら、『何なんだ、どうして女がここにいるんだ? 待てよ、これは絶好のチャンスだ』と思われてしまい、私は恐ろしい目に遭う可能性もあるのです」

彼女は、新しい法律がトランスジェンダーの人々に安心を与えるようなものになることを望んでいる。2016年5月、自由党の新たな司法相でチャーリーの側に立つジョディ・ウィルソン-レイボールドは、トランスジェンダー差別禁止法の導入を再び目指すことに決めた。ウィルソン-レイボールド司法相はチャーリーにとって心強い新たな政治的協力者で、10歳の彼女のことを「その年齢以上に賢い」と述べた。一方チャーリーはウィルソン-レイボールド司法相について、「国会議員の親友」と言った。

もちろん彼女は、この活動が家族の支援無しにはできないことを理解している。

「私たちは娘がいじめの一番の標的になることは望んでいません」と母親のアンは言う。小学校や住んでいた地方のコミュニティーでいじめに遭い、家族はオタワに引っ越した。オタワでは、チャーリーが受け入れられるだけでなく、成長できる学校を見つけた。アンは現在、チャーリーをガールスカウト、ヒップホップダンス、スケートボードイベント、キャンペーン活動に送り迎えするため、忙しい毎日を過ごしている。

オタワでは、若者のホームレスの半分がLGBTQで、彼らは路上生活を送っている。その理由は、彼らが家族から拒絶されていると感じているからである。チャーリーはこの統計データを強く意識している。

「オタワの[トランスジェンダーの]子どもの43%が自殺を考えたことがあるのです」と彼女は言う。「私は幸運な方なのです。現在発せられている、すべての声なき声のために、私は声を上げていきます」◆

シャン・グリフィス
オタワを拠点に仕事をするフリーランスのラジオとネットのジャーナリストで、ドイツ国立放送局、ドイチェ・ヴェレ(ドイツの国際放送局)、BBC、ガーディアン紙、クリスチャン・サイセンス・モニター紙などの仕事を行っている。


2016年11月号NI497p33「Making Waves:Charlie Lowthian-Rickert」の翻訳です。c497-100.jpg



  1. 2016/11/30(水) 01:18:01|
  2. 市民・ムーブメント

【翻訳記事】ベーシック・インカムは右派への贈り物?


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ベルリンで行われたベーシック・インカム導入を求めるデモ
stanjourdan (CC BY-SA 2.0)

この不安定な社会でベーシック・インカムが保証されれば、すべての人々は安心して暮らせるのだろうか? その答えは何を犠牲にするかによる、とニック・ダウソンは主張する。

ベーシック・インカムへの支持は、いまや政治的にはあらゆる層に広がり、その考え方を受け入れる時代が到来したようだ。それによって誰であろうと、労働を強いられるようなことはなくなるかもしれない。そして、現在の福祉政策よりもシンプルな仕組みができてコストが下がる可能性もあるが、実際のところは「福祉への依存」をすっかり排除する可能性もある。

ベーシック・インカム(またはシチズンズ・インカムとも呼ばれる)とは、市民あるいは合法的な居住者であれば、国から最低限の収入を受け取ることができるという政策である。またこれは、「失業手当のわな」と呼ばれる状況(失業手当給付に関して資産調査や所得調査による減額や処罰、その他厳しい条件がつくことで、失業者がボランティア活動をしたり研修へ参加したりすることを控えてしまう)をも回避するものだ。

ベーシック・インカムがあれば、人々はいざというときの頼みの綱があることを意識して短期間の仕事でつなぐことができる。また、無給の仕事でキャリアを積む際にも収入は保証され、雇用主が悪徳な場合の備えにもなる。

だが、これらのような期待にこたえることはできるのだろうか? もしかすると、世の中にはあちこちに抜け道があるように、転落と危機をはらんだ手段ではないのだろうか? あるいは、「自由に使える」現金について議論する方が、誰にとっても不可欠で提供が必要な保健医療や住居などを公的に用意するための面倒な施策について議論するよりも容易なのではないだろうか?

  さようなら福祉国家

自由市場主義者は反福祉国家という感傷的な夢を抱いているが、彼らはベーシック・インカムをそのための完璧な口実と考えている。つまり、ベーシック・インカムを公的サービスの代わりに導入し、その他のことは市場に任せるということだ。

影響力がある「自由市場」主義者で経済学者のミルトン・フリードマンは、政府が市場に干渉せずに福祉の責務を果たす方法として収入保証を支持。「個別の福祉プログラムを寄せ集めたやり方と置き換えるべきだ」と述べている。(1)

ビジネスサイトのFastCoExistは、「ベーシック・インカムは保健医療から所得税控除まで、複数の公的支援を1回の支払いに置き換えることができるだろう」と述べる。(2) これまでのところベーシック・インカムの導入実験で最大のものは、2,240万ドル規模のフィンランドが行っているものだ。フィンランドの右派政権は、これによって保健、教育、福祉の削減も狙っている。(3)

ベーシック・インカムは、バウチャー制度[訳注:社会サービスが受けられる利用券、引換券、割引券を配布する制度]、市場化、公的サービス崩壊が取りざたされると、より多くの注目を集めるようになった。スウェーデン、チリ、米国ルイジアナ州最大の都市ニューオリンズでは、親が費用を支払うためのバウチャーが支給され、公立あるいは私立の学校を選ぶという制度が導入された。(4) 英国イングランドでは保健サービスの「個人保健予算制度」と大規模な外部委託制が押しつけられ、スペインでは保健医療の自己負担制度が導入された。(5)

ベーシック・インカムは、福祉国家をもっと骨抜きにしたい右派の口実となり、公的サービス拡大のための議論促進を困難にする。公的サービスが縮小すれば、たとえベーシック・インカムを受給したとしても、それまで公的サービスとして行われていたサービスを受けるために受給分を使い切ってしまうだろう。また、ベーシック・インカムの実施内容によっては、最貧層への再分配が増えるとは限らない。右派は予算削減のさなかにベーシック・インカム導入をもくろみ、その方向性に従えば、多くの人々の生活レベルが悪化する可能性がある。英国の大学の学費(以前は無料だった)の返済で考えてみれば、英国の非営利団体シチズンズ・インカム・トラストによって2013年に示されているベーシック・インカムのレベルの場合、返済に数十年かかるようになる可能性もある。(6)

多くのサービスは公的に提供されるのが最善策だ。たとえば英国では、国営保健サービス(NHS)が包括的保健医療制度としては無料(受診時)ですばらしい制度をもう長い間続けている。保険を基本とした多くのシステムよりも低コストでより良いサービスを提供し、米国の保健医療制度のような悲惨で無責任な市場によるものの半分のコストですんでいる。(7)

住居についても同じことが言える。公的な投入は、民間セクターよりも質の高い住宅をずっと大規模に提供することが可能だ。(8) 民間の賃貸業界への補助金は、公営住宅よりも高くつき、民間賃貸住宅所有者が家賃を値上げする引き金となる。「ベーシック・インカム」も、やり方によっては同様の影響をおよぼすリスクがある。(9) そして非常に重要なことは、住居は誰にでも不可欠なものにもかかわらず、規制されない民間市場では多くの人々が安心できる手段がほとんど存在しないことだ。

  将来的にも意味のある制度を

私たちは、より大胆な議論をする必要がある。人々のニーズに対応するということは、全員にカネを配るということではないし、人々が良い生活を送るためのカネの使い道を市場任せにすることでもない。

多くのベーシック・インカム支持者は、自由と自由市場に関する右派の前提を暗に受け入れてしまっている。それには、人々がカネを渡せばあとは市場がうまくやってくれる、という意識も含まれている。公的サービスにおいては、個人化した市場の「選択」の導入を大幅に推進すること不要だが、それは私たちが住みたいと考える社会についての選択肢を狭めることにつながる。民営化された保健医療制度は、いろいろな企業のサービスという選択肢を私たちに与えてくれるかもしれない。だが私たちは、利益よりも患者を優先することが可能なスタッフがいる地域の病院へ行くという選択肢を失ってしまうのだ。

私たちの生活のあらゆる部分に市場が拡大すれば、破滅的な影響を受けることになる。幅広い価値観よりも利益追求が優先され、選択肢があるといっても個々のブランドを選択する程度のうわべをつくろった選択とすり替えられてしまう。

保健医療、教育、住居における民営化の波を押し返し、品質の良い公共交通機関と水道・電気・ガスなどの公営事業を低料金で、あるいは無料で提供するために制度を整備し、それによって生活費を削減し、また誰もが本当の選択ができるよう取り組みを始めようではないか。物への課税(付加価値税や物品サービス税)のような隠された逆進的な税[訳注*]と手数料を改革し、その分のカネがきちんと人々に配分されるようにすることも、私たちにはできることだ。

これはまた、公正さの問題でもある。

将来、AI(人工知能)によって私たちの多くを失業者にすると言われているシリコンバレーの金持ちは、社会的、経済的な安定を求めてベーシック・インカムについてロビー活動をしている。しかしその一方で、巨万の富を独占している。

技術ライターのベン・ターノフは次のように主張する。「今後登場するであろうロボットは、私たちの税金、注目、データが結集されて開発されたものになります。こんな状況においてベーシック・インカムとは、あなたのサンドウィッチを取って食べたいじめっ子がこぼしたパンくずのようなものだと言えるでしょう」(10)

このような背景において、ベーシック・インカムとは何なのか? それは単に、社会的に所有すべきとされる土地と公的資源を私的財産として「囲い込まれた」人々に対して支払われる、本来必要な補償のうちのわずか一部にすぎないものということになるだろう。

私たちは、右派がベーシック・インカム導入のために働きかける際の前提と主張を受け入れることはできない。もしも左派がベーシック・インカムを支持するのであれば、新自由主義国家へ向かう道を逆戻りするための試みの一部として、はっきり位置づける必要がある。それは、公的サービスの向上と拡大から着手すべきもので、その意思決定過程には労働者と一般の人々が完全に含まれる。現在起こっているようなサービス提供のシフト、すなわち、人々の必要性に応じた公的なサービス提供から、支払い能力に応じた個人的なサービス提供へ移行する動きのことで、その一角を担ってはならないのだ。定期的な現金給付にまどわされ、私たちの環境、科学、あるいは社会に関して、将来的な可能性を制限してしまわないよう注意が必要だ。◆

ニック・ダウソン
ライター、国営保健サービス(NHS)に関するキャンペーン活動家。

(1) Matt Orfalea, ‘Why Milton Friedman supported a guaranteed income’, 11 December 2015, http://nin.tl/Friedman-basic
(2) Ben Schiller, ‘A Dutch city is experimenting with giving away a basic income of $1,000 a month’, 22 January 2016, http://nin.tl/DutchBA
(3) Vito Laterza, ‘Finland: basic income experiment - what we know’, 9 December 2015, http://nin.tl/FinlandBI
(4) Richard Orange, ‘Sweden urged to rethink parents’ choice over schools after education decline’, The Guardian, 4 May 2015, http://nin.tl/Sweden-schools; Naomi Klein, ‘The shock doctrine in action in New Orleans’, Huffington Post, 21 December 2007, http://nin.tl/Orleans-shock
(5) Adam Gaffney, ‘Austerity and the unraveling of universal healthcare’, Dissent, 2013, http://nin.tl/EUhealthcare
(6) 現状の大学の授業料最高額を年9,000ポンド、教育期間を最短の3年間として考えると、シチズンズ・インカム・トラストが示している71ポンド(95ドル/週)というベーシック・インカムの金額で計算すれば、授業料の返済だけで7.3年かかることになる。実際には、大学時代の生活費、学費ローンの利息、その他卒業までの費用を含めれば、返済期間はその数倍になる。
(7) http://nin.tl/NHSspend
(8) 英国では、第二次世界大戦後に各地方団体が大規模に公営住宅を供給するようになった。1970年代末までは、年間10万戸の公営住宅が建設された。しかしサッチャー政権でこの施策は終了し、その後は住宅供給数が劇的に減少する一方で、価格と家賃は高騰した。次のBBCのサイトを参照。
http://bbc.com/news/magazine-30776306
(9) Martin Farley, ‘Why Land value Tax and Universal Basic Income need each other’, 20 April 2016, http://nin.tl/FarleyBI
(10) Ben Tarnoff , ‘Tech billionaires got rich off us. Now they want to feed us the crumbs’, The Guardian, 16 May 2016, http://nin.tl/techBI

訳注*:税の場合、収入と税負担が反比例すること。日本の消費税は収入に関係なく8%のため、同じ値段の物を買えば年収200万円の人でも2,000万円の人でも同額の税金を支払っていることになり、これは逆進税と呼ばれる。一方所得税は、収入に対して一定割合で課税されるため、所得が高ければ税額は高くなり、低ければ低くなるという累進性のある税金(累進税)である。



2016年11月号NI497p26-27「Why a basic income could be a gift to the Right」の翻訳です。c497-100.jpg



  1. 2016/11/30(水) 00:53:08|
  2. 政治・国際関係

【翻訳記事】闘争最後の日々:写真で見るFARC最終会合

コロンビアでの歴史的和平合意に向けた国民投票の準備が進む中、FARC(コロンビア革命軍)内でもその日に向けた準備が進む。キンバリー・ブラウンがその様子を写真で報告する。

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FARCのゲリラ兵、デビッド・プレシアド。14才で入隊し、兵歴19年の33歳。政府軍との戦闘で6回被弾し、医師たちから切断を強いられ左腕を失った。 © Kimberley Brown

10月2日にFARCとの歴史的合意について国民投票が行われるコロンビアは、52年間にわたる内戦に終止符を打つチャンスを迎える。

FARCは、コロンビア内戦における最大のゲリラ勢力で、マルクス・レーニン主義の農民勢力として1964年にスタートした。ジャングルの中でこの反政府勢力が集まって会議を開き、彼らの今後の政治的立場を討議したのち、9月26日にティモレオン・ヒメネス最高司令官(別名「ティモシェンコ」、本名は「ロドリゴ・ロンドニョ」)とフアン・マヌエル・サントス大統領が和平文書に署名した。


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何もないへんぴな場所に設置された立派な巨大ステージ。FARCが会合用に設置したこの会場ではコンサートが行われ、伝統音楽ホローポからレゲエ・フュージョンまで、毎晩あらゆる音楽が演奏された。 © Kimberley Brown

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閉会式でのFARC指導者ティモレオン・ヒメネス(またの名を「ティモシェンコ」)とイバン・マルケス。この時、FARCの全陣営が和平協定に同意したことが発表された。 © Kimberley Brown

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会合が行われた1週間に、500を超える国内外の報道メディアやオルタナティブ・メディアが訪れた。メディアの大半が機会をうかがっていたのは司令官クラスとのインタビューだった。しかし、彼らは非公開会談を一日中行っていたため、その機会はほとんどなかった。ある日、会談を行っている部屋への入室が2時間限定で許され、メディアが殺到した。そして、その場にいた指導者らは質問に簡単に答えた。 © Kimberley Brown

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FARCゲリラ兵ノルベイ・ヘルナンデス・アポロ。彼は1996年に13歳で入隊した。彼いわく、グアビアーレ県の貧しい農村部で育ち、そこでは学校には行けず仕事もなかった。FARCに入隊した理由は、教育も含めたより良い機会の申し出があっただけでなく、コロンビアにおける平等のために闘おうという彼らの言葉を信じたからだったという。 © Kimberley Brown

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第10回全国ゲリラ会合(9月17日から23日)のためにエル・ディアマンテ地区に設けられたFARCの野営場のひとつ。この地区は、アマゾンのジャングルに隣接するメタ県とカケタ県の県境に位置し、かつてはゲリラと政府軍との激戦地であった。 © Kimberley Brown

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ゲリラ兵が使用する1人用宿泊ユニット。これを彼らは「カレッタ」と呼ぶ。新しい野営場所に到着後、各自が最初にすることが、自分のカレッタの設営だ。これには40分から最長2時間かかる。その他の施設はゲリラ兵同士が協力しながら設営する。 © Kimberley Brown

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カレッタで座ってタバコを吸う女性ゲリラ兵。女性たちは、FARC内で男性優位を感じることはほとんどなかった。彼らは、「チームとして」任務を分担しているそうだ。女性兵の割合は、全FARC兵の40%を超えている。 © Kimberley Brown

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© Kimberley Brown

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食肉用に朝に解体した牛から肉を切り取るゲリラたち。食肉処理は、肉が傷まないよう素早く行い、ジャングルの灼熱が始まる前の早朝に行う必要がある。 © Kimberley Brown

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朝に解体した肉を調理するゲリラたち。 © Kimberley Brown

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FARCゲリラ兵、デビッド・プレシアド。14才で入隊し、兵歴19年の33歳。政府軍との戦闘で6回被弾し、医師たちから切断を強いられ左腕を失った。 © Kimberley Brown

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群から脱走した牛を捕まえるゲリラ兵。 © Kimberley Brown

by キンバリー・ブラウン

New Internationalist 11月号"Peace in Colombia? Hope and fear "(「平和を模索するコロンビアの希望と不安」)では、この国の事情を深く探っています。

NIブログ記事"The last days of war: FARC's 'final conference' in pictures"の翻訳です。

翻訳協力:斉藤孝子



  1. 2016/11/05(土) 23:20:23|
  2. 暴力・平和・人権

【翻訳記事】鉱山開発による土地収奪と闘う人々(ビルマ)


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レパダウンの村人に立ち退きを迫る警察(その他の写真は下の名前部分をクリック)
Han Win Aung/Burma Partnership (CC BY-NC 2.0)


ビルマミャンマー)では、急速な経済発展と増加する外国資本の鉱山事業によって多くの農民が影響を受けている。トウェ・トウェ・ウィンは、そんなビルマの農民のひとりだ。2012年彼女の村では、中国の鉱山企業が行う事業に関する説明会があり、村人たちは当局から呼び出されて学校に集まった。当局側は、レパダウン鉱山開発のために収用された土地には市場価格以上の補償を行うことを約束し、鉱山の廃棄物を地元の農地に廃棄することはないと言った。

4年後、数百人の村人たちが強制立ち退きに遭っている。また、鉱山のために化学物質を製造する酸化物プラントが、村人十数世帯の家から50メートルあまりのところに姿を現した。平和に行われた鉱山反対の抗議活動に対し、警察は白リン弾[訳注]を使用し、150人を超える僧侶と村人たちが一生残る傷を負った。2016年に現地調査を行った人権団体「フロント・ライン・ディフェンダー」は、体の50%を超える部分に化学やけどの傷跡が残る複数の生存者に面会した。

トウェ・トウェは現在、鉱山企業と警察の過度な対応に抗議している。彼女によれば、警察はコミュニティーよりも鉱山を守っているという。だが抗議を行った結果、彼女は脅迫や嫌がらせを受け、逮捕されてしまった。しばしば国際的なニュースとして、ビルマ新政府が著名な人権活動家を首都ラングーン(ヤンゴン)の刑務所から釈放したことが報道されるが、地方の草の根活動家に対する弾圧が報道されることはほとんどない。

ビルマの指導者であるアウン・サン・スーチーは、政府の国内農業地域軽視という姿勢に沿った外交的対応を行っている。この8月スーチは北京を訪問し、中国がビルマに建設する34億ドルに上る水力発電ダム建設プロジェクトの交渉を再開させた。このダムは、環境破壊に対する抗議が拡大したため2011年に頓挫したプロジェクトだった。

国際的には、大半の人々はビルマの和平プロセスの行方に注目しており、数百万人が影響を受けている土地の権利の侵害は無視されている。EU(欧州連合)は和平プロセスに1億ドル以上を投入しているが、人権擁護活動家は、欧州のリーダーたちは民主化へのプロセスに含まれていない地方コミュニティーの支援に失敗している、と述べる。欧州委員会は6月のプレスリリースで、「土地の権利の強化[と]、土地の収用がもたらす不公正な苦しみにどう対応するのかが、新政府の正当性にとって非常に重要となる」と認めているが、この侵害を終わらせる計画案については触れていない。◆

by エリン・キルブライド(フロント・ライン・ディフェンダー)
https://www.frontlinedefenders.org

訳注:白リン弾は、煙幕の発生や焼夷弾として戦闘で使われるが、警察がデモの鎮圧に使うことはほとんどない。負傷者たちは、高温になる白リンによってやけどを負った。


2016年10月号NI496p6「Land defenders step up(BURMA)」の翻訳です。c496-100.jpg




  1. 2016/10/31(月) 23:21:46|
  2. 環境・資源

【翻訳記事】PISA狂騒曲とピアソン社が描く学校教育

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ccarlsteadCC BY 2.0
(写真は記事とは直接関係はありません)



国際的な学力テストと教育民営化は、どのように連携しながら進んでいるのか。アダム・アンウィンとジョン・ヤンデルが報告する。

新自由主義が描く教育の将来にとって、テストの点数は重要である。それによって基準を示すことが可能になり、新自由主義システム内での説明責任[訳注*]を果たせるようになる。テストの点数で示される結果が頼れるものなのであれば、生徒同士、クラス同士、学校同士、国同士の比較が容易になる。現在、テストに基づいた説明責任へ寄せられる関心はまさに世界的な現象となっており、地域や国レベルでの教育の優先順位と教育政策を方向付けるようになってきている。
[訳注*:本稿ではこの責任について、学校や地域ごとの成績やテストの目標設定と報告に対する責任に加え、学校の生産性(投入予算と生徒の成績)に対する説明責任についても含まれたニュアンスで使用されている]

2000年以来、OECD(経済協力開発機構)が行う定期的なテスト、PISA生徒の学習到達度調査)に参加する国はますます増えている。この、読解、数学、科学の分野が含まれるテストは、15歳を対象に3年ごとに行われる。教育は、徐々にこのPISAの成績に影響を受け始めている。他国のPISAの点数をうらやむ人々は、自国の学校で判明している欠点を改善するために、成績上位国に目を向けて解決策を探すよう政府に求めている。

報道では、成績ばかりに目を奪われ焦った反応が伝えられるが、その報道の根底にある考え方は適切とは言えない。その考え方とは、あるひとつの地域内でうまくいったことは、単純に他の地域にも輸出できるということを前提としたものだ。つまり、もし上海でうまくいったのであれば、それはまさにワシントンでも必要とされている、というように考えるのである。

これは、教育政策を発展させていく方法としては極めておかしな方法だ。ある文化、ある社会の中で行われている学校教育のある一面を切り取り、全く異なる文化と社会に導入するということは、率直に言って不可能である。また、PISAに含まれている「重要なのは検証可能であること」という要素が、カリキュラムを狭めていることは明らかだと思われる。この要素が重視されて時間と資源が費やされるようになるが、その一方でカリキュラムのほかの部分や学びの他の特徴については片隅に追いやられて注意が払われなくなるのだ。

また、PISAは変化しているが、その変化の方向は、民営化を目指す新自由主義マニアの意向を反映し、彼らの後押しをするという方向である。PISAの初期の頃は、テストの開発、データの収集と分析は、専門組織から成る国際的な共同事業体にすべて委託されていた。2013年OECDは、米国でのテスト運営を、教科書と試験の巨大企業マグロウヒル・エデュケーションに依頼した。そして2014年には、教育分野で世界最大の企業ピアソンにPISA 2018の基本構想開発を依頼した。つまり、何をどうやってテストするのかは、ピアソンが決めることになる。ピアソンが現在教育分野で担っている役割について、私たちは注意深く見ていくべきだが、特に南の国々での動きについてそれが求められている。

常に稼ぐ

2015年7月、ピアソンはフィナンシャル・タイムズ(FT)を日本企業の日経に売却した。58年間ピアソンの子会社で国際的にも高い評価を得ていたFTを売却した理由として、ピアソンのCEO(最高経営責任者)のジョン・ファロンは、ピアソンの8億ポンド(13億ドル)あまりの年間利益に対し、FTの貢献が2,500万ポンド(4,000万ドル)にも満たなかったことを挙げた。(1)

年間80億ドル近くの売り上げを誇るピアソンは、教育分野に集中する決断を下したのである。これは、ある種の公民としての責任感によるものではない。どの分野で利益を上げるべきかという、現実的なビジネスの計算から弾き出された決断だ。ピアソンのモットーは、「常に学ぶ(always learning)」ということのようだが、コメンテーターたちが言うように、「常に稼ぐ(always earning)」という方がより適切と言えるのかもしれない。

ピアソンの教育への熱意は最近始まったことではない。ピアソンは、教科書、試験用紙、オンライン学習教材、教育ソフトウエアを制作し、大規模なコンサルタント業務も行っている。しかし、同社が4万人を超える従業員を擁して80を超える国で営業するグローバルな有力企業となったのは、ここ10年でのことだ。(2) PISA 2018の契約が同社に与えられたことは、この背景を含めて考える必要がある。ピアソンがすでに(大きな成功を収めながら)行ってきたことは、同時に教育政策にも影響を与えてきた。その過程で問題を確認し、その解決策も提供してきたのだ(こうして、さらなる利益につながる介入の機会を創出した)。

2011年ピアソンは、教育アドバイザーの責任者にマイケル・バーバー卿を任命した。バーバーは、教育コンサルタント業務を行う企業、マッキンゼーで働いており、英国のトニー・ブレア元首相の主席教育顧問として注目を浴びた。彼はその時、妥協せず、結果重視、市場をベースとした公共政策へのアプローチ「伝達・達成学」を提唱した。(3)

バーバーは、旧態依然で硬直した公共サービスの欠陥と欠如に対する処方箋として企業のイノベーションを用いるために、民間セクターに優位性があることを前提として物事を進めて政府内で多大な影響力を誇っていた。従って彼は、公的な学校教育に代わる利益促進を目的とした代替策を模索する企業にとって、うってつけの人材だった。2012年バーバーは、アフリカとアジア(特にインド、パキスタン、南アフリカ、ケニア、ガーナ、フィリピンといった高い成長を誇る新興国)で低料金の私立学校を支援する営利目的のベンチャーファンドとして、ピアソン・アフォーダブル・ラーニング・ファンド(PALF)を立ち上げた。

ビアソンは、すでにケニアに400校、ウガンダに7校を開校していた営利目的の企業チェーン、ブリッジ・インターナショナル・アカデミア(BIA)を買収した。そして、ナイジェリアとインドに進出する計画を立て、2015年までに1,000万人の生徒に対応できるようにする目標を掲げていた。この野心的な計画の特徴は、もちろんその規模にあるが、それがまたピアソンの投資戦略の原動力ともなっている。しかし、これと同じように特徴的で目を引くのは、その学校教育の将来像である。

BIAのビジネスモデルの戦略的特徴は、垂直統合された「アカデミーインナボックス(Academy-in-a-box)モデル」(「スターバックス式」学校教育とも呼ばれている)を基本としていることだ。これは、カリキュラムと教授法も対象に、プロセスや手法の大胆な標準化を伴うもので、企業が素早く展開して莫大な経済規模を達成することが可能な、データ分析とテクノロジーに大きく依存する。脚本が用意されたカリキュラムでは、教師が授業のどの部分で何をして何を話すべきかについて指示と説明が用意され、それがBIA本部とつながったタブレットPCを通じて送信され、授業計画と比較しての進捗と内容の確認、評価のための観察が行われる。(2)

このように、BIAが提供するのは、民営化、中央統制、結果中心といった特徴を持つ新自由主義教育のお手本である。費用効率は、規模が大きいことによるメリットだけでなく、この方式のユニークなセールスポイントによっても保証される。それはつまり、タブレットPCがあれば、誰が有能な教師を必要とするのだろうか、ということである。

ピアソンは、市場の中でもまだ未開拓な地域に進出していくことを目指す他の教育ビジネス企業と同様に、低料金の私立学校で遂げた成功を喧伝している。たとえば、学校とは無縁だった最貧層の子どもたちも利用し、競争にさらされているため公立学校よりも効率的で、より良い結果とより高い水準をもたらす、といった具合だ。

既存制度への打撃

これらの主張のほとんどは、独立した調査研究による裏付けはとれていない。これまでに行われている最も厳格な検証によれば、このような主張について少なからぬ疑いが生じている。(4) 学校とは無縁だった子どもたちに学校教育を提供するというよりは、低料金の学校は公立学校と競争しながら運営されているため、既存の制度にさらなる打撃を与えているように思われる。

しかしこの議論は、いかなる状況においても、多くの客観的な評価データを集めたからといって解決するものではない。なぜならそれは、教育とは何か、教育は何を目指すべきものなのか、という人々の見解に依拠するものだからだ。もしも教育というものが日用品で、脚本に沿った授業と「アカデミーインナボックス」のための必要品とシンプルな標準テストで測定可能な要素をひと揃えにして援助として運んで行けるものであれば、何も心配することはない。ピアソンは確かに常に学び、常に稼いでいくことだろう。

しかし、教育と名の付くものはそうではなく、そんな手法や製品と同様の扱いを受けるものではない、と言うのであれば、ジョン・ファロンやマイケル・バーバーが私たちに売り込むものに対する何らかのオルタナティブ(代替案)をきちんと深く考える必要がある。◆

by アダム・アンウィン&ジョン・ヤンデル

(1) The Guardian nin.tl/Pearsonboss
(2) Carolina Junemann and Stephen J Ball, Pearson and PALF, Education International, Brussels, nin.tl/Pearsonmutating
(3) Michael Barber et al, Deliverology 101, Corwin/SAGE, Thousand Oaks, 2011
(4) Laura Day Ashley et al, The role and impact of private schools in developing countries, nin.tl/privateschoolsSouth

NIブログ記事"PISA-envy, Pearson and Starbucks-style schools"の翻訳です。

翻訳協力:中村一郎


アダム・アンウィン&ジョン・ヤンデルの近著
"Rethinking Education: Whose Knowledge Is It Anyway?"
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  1. 2016/10/28(金) 02:06:23|
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