NIジャパンブログ

【翻訳記事】世界の国のプロフィール:南スーダン


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サルバ・キール(左)とリエク・マーシャル
Day Donaldson(CC BY 2.0

ジュバ空港からの道(この国では数少ない舗装路のひとつ)の両脇には、荒廃した建物が続く。その建設途中や崩れ落ちた建物は、2011年に多大な努力の末に成し遂げたスーダンからの独立後の希望満ちあふれた日々の名残である。かつてはナイル川沿いの小さな交易拠点のひとつだった首都ジュバも、現在はほこりっぽい町が不規則に広がり、国連スタッフ、軍、隊列を組んで走る自動車があふれる場所になっている。顕著なインフラ不足(首都以外ではより目立つ)は、長い間無視されてきた歴史を物語っている。

英国は1956年のスーダン独立に際し、文化、民族、言語、宗教の点ではっきり異なる南部地域に自治の約束をしたが、実現はできなかった。このことにより、不可避な衝突の扉が開いた。その後、南部地域の自治権を認めた1972年のアディスアベバ合意によって、ささやかな安定への扉が開かれた。しかし1983年、この合意は崩壊し、再び敵意がむき出しとなり、ジョン・ガラン率いる反政府勢力「スーダン人民解放軍(SPLA)」の結成につながった。

国際社会の強力な圧力によって2005年に南北包括和平合意(CPA)が結ばれるまで、ゲリラとの間ですさまじい戦いが続いた。このCPAでは、南部の分離をはかる国民投票の実施が約束された。CPA締結の数カ月後、ジョン・ガランがヘリコプター事故で死亡して副大統領だったサルバ・キールが後を継ぎ、和平合意は危機に直面した。しかし、欧米諸国からの圧力によってCPAは予定通り進み、2011年には南部スーダン人の98.8%が独立に賛成票を投じた。

だがCPAは、2つの問題を完全には解決しなかった。ひとつは、北部と南部の間の厳密な国境の確定(争いが続く石油が豊富なアビエイ地区を含む)。もうひとつは、南部の油田の利益の南北間での分配についてである。独立によって南スーダンは、分離前のスーダンの油田の4分の3を支配下に置いた。しかし油田は内陸にあり、精製施設と輸出拠点があるのはスーダン側だった。スーダンは途方もない通行料を要求し、南スーダンはそれに抗議するため、独立から6カ月後に石油生産停止という捨て身の最終手段に打って出た。

独立時、この新しい国の予算の50%以上を軍事予算が占めていたが、その支出はSPLAを構成する民兵組織(民族ごとに分かれてその関係は複雑)の忠誠を保つために必要なものだった。15カ月間石油収入が途絶えたキール大統領は、当時主導権争いをしていたリエク・マーシャル副大統領など政敵を押さえ込むことができなくなった。キールとマーシャルはそれぞれディンカ民族とヌエル民族出身で、それぞれの民族内では最有力者だった。そして彼らの争いが影響して2013年12月には内戦が勃発した。

どちらの民族も相手民族に対して毎日のように残虐行為を行った。遅々として進まない和平交渉だったが、2015年8月には貧弱な和平合意につながった。その内容には権力の分担に関する提案が含まれていたが、実施まで9カ月以上かかった。しかし2016年7月、ジュバの町で再び激しい戦闘が勃発し、平和維持への期待は打ち砕かれた。

何万という人々が死亡し、230万人が住まいを追われただけでなく、独立以来築いてきたささやかな発展までもがこの衝突によって破壊された。世界の原油価格の下落とパイプラインの関税に加え、石油企業への負債で生じる利子、そしてドナーからの支援が人道活動へ配分し直されたこともあり、政府の歳入はほとんど無きに等しくなった。

この国は現在、政治的、経済的に崖っぷちの状態にある。ハイパーインフレーションに加え、ふくれあがった軍隊に間もなく支払いが滞るであろう軍事費のこともあり、さらなる不安定化は避けられない。地域仲裁活動の専門家であるベルナール・スヴァは、「戦争の前、地域コミュニティーがしっかりしていたが、現在その地域コミュニティーは破壊されてしまった」と述べた。南スーダンの歴史は紛争と貧困の歴史だが、その未来はこれまで以上に厳しいように思える。◆

by エレノアー・ホブハウス

データ   170101Flag_of_South_Sudan.jpg

指導者:サルバ・キール大統領
経済:1人当たりの国民総所得(GNI)は790ドル(スーダン1,710ドル、英国43,430ドル)。独立前の2010年は1,060ドルだった。
通貨単位:南スーダンポンド(SSP)
輸出:南スーダンの輸出のほとんどを占めるのが石油で、GDP(国内総生産)に占める割合は約60%。しかし国民のほとんどは、農業や家畜飼育で自給中心の生活を送っている。石油価格の下落によって大打撃を受け、通貨は暴落し、インフレは300%に達した。
人口:1,230万人。人口増加率は年3.0%。現在人口は2000年の倍になっている。人口密度は1平方キロメートル当たり21人(英国267人)。
保健:1,000人当たりの1歳未満児死亡数(乳児死亡数)は60人(スーダン48人、英国4人)。衛生的な水を利用できているのは人口の55%で、適切なトイレを利用できているのは15%のみ。妊産婦死亡の生涯リスク[訳注1]は26人に1人(英国5,800人に1人)。HIV感染率2.5%。
環境:国土の大半は乾燥地帯で、過放牧による草地の劣化に苦しむ。国を貫いて流れる白ナイル川は季節によって川幅が広がり、広大な湿地帯を生み出す。国民1人当たりの二酸化炭素排出量は0.1トンである。
民族:最大で64の民族が確認されている。最大の民族はディンカ民族で、人口の35%近くを占める。一方ヌエル民族は人口の16%あまりを占める。どちらの民族もより大きなニロティック系民族グループに属し、そこにはより小さな遊牧民族も含まれる。アザンデやバリなど南部では定住農業が行われている。
宗教:キリスト教徒61%、イスラム教徒6%、伝統的なアフリカの宗教(複数)33%。
言語:公用語は英語。アラビア語は広く使われている(首都で使われるシンプルな形式の「ジュバ・アラビア語」も含む)。ディンカ、ヌエル、バリ、ザンデなど、地域言語が約80使用されている。
人間開発指数[訳注2]0.467で、188カ国中169番目(スーダン0.479、英国0.907)。

訳注1:妊娠や出産時、あるいはそれに関連する病気で死亡する生涯にわたるリスクのこと。妊産婦死亡率は1回の出産に対するリスクとなるため統計の取り方が異なる。
訳注2:国連開発計画の「人間開発報告書」で使用されている、各国の人間開発の度合いを測るための経済社会指標。0から1で示され、1に近いほど個人の基本的な選択肢が広く人間開発が進んでいるとされる。

NI五つ星評価
(南スーダンは今回が初めての評価)

とても良い ★★★★★
    良い ★★★★
    普通 ★★★
    悪い ★★
   ひどい ★

所得配分 ★
人口の半分近くにあたる510万人が食料の支援を必要としている。その一方でわずかなエリートが、国の資源や財産をかすめ取る人間達とつながって莫大な財産を築いていると言われている。

平均寿命 ★
56歳(スーダン64歳、英国81歳)。世界の順位では下から11番目。

女性をめぐる状況 ★★
政府上級職と議会では、女性の割合が25%として決められている。しかし昔からの家父長制度が根強く、学校に通っている女児は33%にすぎず、先日の衝突では女性に対する暴力が劇的に増加した。

自由 ★
報道の自由インデックスでは180カ国中140位で、過去2年間で21も順位を落とした。2016年6月に起こった学生の抗議活動に対して、治安部隊が激しい弾圧を行った。しかし一方で「2016年NGO法」には、制限的な条項や政府の監視を牽制する内容も含まれている。

識字率 ★
推定で27%。6~17歳の子どもたちの70%は学校に通ったことがない。

セクシャルマイノリティー ★★
男性間性交渉は違法で、10年の禁固や懲役となる(これは、スーダンの英国植民地時代の法律がもとになっている。女性間に関しては言及がない)。社会では差別が広がっている。

NIによる総合評価

政治 ★

ハルツームのスーダン政府との数十年にわたる戦争の間、政府は自らの行動に関して説明責任を果たしてこなかった。この姿勢が新しい政府にも引き継がれている。世界で最も新しい国は、慢性化した腐敗に悩まされ続けている。身の毛もよだつ恐ろしい内戦は、国の資源や資金を支配する目的で行われている、ライバル民族のエリートたちが後押しするネットワーク同士の主導権争いに端を発している。衝突において両陣営は、民族間の分断を積極的に利用し、どの勢力も裁きを受けることなく今も悪事を働いている。そして政府は、悪化する経済的、政治的危機に対して、市民の自由を制限するという対応をとっている。


2016年12月号NI498英国版から「Country Profile: South Sudan」の翻訳です。


  1. 2017/01/01(日) 17:31:13|
  2. 国・地域

【翻訳記事】預金は黒人オーナーの銀行へ(米国)


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OneUnited Bankのウェブサイト。「20人の友達を#BANKBLACKへ誘ってみよう」と書かれている。


米国の黒人たちは、多数公表されている警察官による殺人に対抗するため、経済的な力をつけることに目を向けている。

キャンペーン活動家らは、黒人が所有する全国318金融機関に預金を移動するよう人々に強く呼びかけた。6月に「#BankBlack」というタグがソーシャルメディアに登場し、何千もの預金移動に拍車をかけた。例えばワシントン商工銀行では、2カ月間の新規口座開設数がこれまでの平均100口座から3,000口座に激増し、預金額は600万ドルに上った。

黒人所有銀行としては米国最大のワンユナイテッド銀行は、低所得層と中低所得層に対して1995年から10億ドル以上の融資を行ってきた。同銀行は今回のキャンペーンの成果として、「黒人コミュニティーに対するより多くの仕事、利用しやすい住宅ローン、きちんとしたファイナンス活用のための教育」を挙げた。

またこのキャンペーンは、偏見に満ちた組織、例えば融資の際にマイノリティーを差別して6月に1,060万ドルの罰金を科せられた金融機関バンコープサウスなどから、資金を引き揚げることも勧めている。◆

by トム・ローソン


2016年12月号NI498p9「#BankBlack(United States)」の翻訳です。c498-100.jpg



  1. 2016/12/30(金) 02:25:21|
  2. 市民・ムーブメント

【翻訳記事】課税逃れの偽装ゲーム


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地図をクリックすると本記事の英文ページが開きます。

租税回避はいくつもの対象地が関係する世界的なシステムによって行われており、金融分野での隠蔽と改ざんが何重にも行われる。今回はその対象と、誰が得をして誰が被害を被っているのかを見ていこう。

●米国
米国の資金が海外に流出するのを食い止めるために、米国は自らを最も重要な租税回避地のひとつとして作り上げた。巨大な金融産業は海外資本へ0%課税としており、汚れた資金を磁石のように引きつけてきた。デラウェア州、ワイオミング州、ネバダ州など州法が緩い州では、匿名のペーパーカンパニーの設立は容易である。

●グアテマラ
2013年グアテマラは、資金が違法に海外流出して25億ドル以上を失った。これは、教育分野の公的支出額合計よりも10億ドル以上多い額である。

●パナマ
悪名高い弁護士事務所モサック・フォンセカが拠点を置くパナマは、秘密主義を改めるよう国際社会から圧力を受けるが抵抗し続けている。パナマには現在、35万社の匿名のペーパーカンパニーが登録されており、海外企業は資金を上限なくパナマ国内に移すことができ、税金を払う必要もない。パナマ文書発覚時の改革の試みは、パナマ政府調査委員会のメンバーに就任したノーベル経済学賞受賞の経済学者ジョセフ・スティグリッツが透明性不足に業を煮やして辞任し、機能していない。

●ケイマン諸島
ケイマン諸島は、世界で6番目に大きな金融センターで、その金融資産は1.4兆ドル以上である。11万以上の投資ファンドが拠点を置き、そこには世界のヘッジファンドの半数近くが含まれている。ケイマン諸島の米国の投資額は、中国経済よりも大きいと考えられている。秘密主義に関する法律は非常に厳しく、場合によっては銀行の情報を尋ねるだけで投獄される可能性もある。

●英領バージン諸島
この国の企業登録数は、国民1人あたりに換算すると16社となる[訳注:日本の場合、2015年の商業・法人登記を参考にすると1人あたり0.02社程度]。この小さな海外領土は、世界でも最も簡単に匿名ペーパーカンパニーの登録が可能な国のひとつだ。緩い法律と余計な質問はしない方針の登記法は、実際に利益を得る人々が表面的なダミーを立てて隠れることを容易にする。

●アイルランド
法人税を1桁台に下げる移転価格[訳注:親会社と海外関連会社間の取引価格を操作して、税率の低い国への利益移転を図る]の大胆な形である「ダブル・アイリッシュ」で有名なアイルランド。この国は、アップル、フェイスブック、グーグルといった米国のIT大手のお気に入りである。アップルの低税率をめぐって先日起こった欧州連合(EU)との争いは、法人税回避企業の今後に影響をおよぼす可能性もある。

●ロンドン
ロンドンでは、金持ちの租税回避者たちが資金を隠すために不動産を利用しており、住宅価格が高騰している。市場が好調で固定資産税も低いため、違法な資金を一時的に置いておくには好都合な場所だ。現在平均住宅価格は平均年収の14倍になっている。

●ロンドンのシティ
[訳注:シティは現在金融街として知られるが、古くから商業と金融の中心として役割を担い自治権を有し、現在もロンドン市長とは別に独自の市長がいる。市長は経済・金融に関して独自の外交も行っている。]
王室属領[訳注:英国王室に属するが高度な自治権を持つ地域]と海外領土のネットワークの中心となっている。シティは、世界の大手金融機関の関心事に沿って物事が進むよう後押ししていくことが公式な務めとされている。オフショア[訳注:本国からの規制を受けない海外での金融取引]の世界が活発であり続けるよう「金融の自由」を確保するために、自らが持つ特別な法的特権を使って粘り強いロビー活動を行う。

●ルクセンブルク
ヨーロッパではスイスに次ぐ規模を持つ租税回避地である。緩い金融規制と低い法人税によって、ペプシコやウォルマートといった特に多国籍企業に人気がある。キャピタルゲイン[訳注:土地、債券、株式などの売却益のこと]への税率が低く、配当に対しては非課税であるため、この国はヨーロッパにおける投資ファンド(2兆5,000億ドルという膨大な資産を運用)の中心拠点となっている。

●スイス
改革の圧力にもかかわらず、スイスは依然として金融秘密主義の牙城で、開発途上国からの不正資金のお気に入りの目的地のひとつとなっている。専門家は、2兆3,000億ドル(全オフショア資産の大体3分の1)が、秘密主義のスイスの民間銀行に預けられていると推測している。

●ウガンダ
2010年の税金スキャンダルは、ウガンダの始まったばかりの石油産業を揺るがした。その原因は、英国資本のヘリテージ・オイル・アンド・ガスが、ウガンダの油田を売却した際に4億3,400万ドルの支払いを免れるため、住所をバハマからモーリシャスに移そうとしたためだ。この額はウガンダの1年間の税収の約5分の1に相当するが、長い法廷闘争の末にその一部がようやく支払われた。

●ザンビア
鉱物資源が豊かなザンビアでは、鉱山企業が移転価格スキームを使って税務当局の目をごまかしている。企業の課税逃れにより、ザンビアは年間20億~30億ドルの損失を被っており、それはおよそGDPの10~15%にあたる。国民の74%が1日1.25ドル未満で暮らしているこの国で、その失われた資金があれば、問題を抱える学校と保健医療について政府予算を倍にすることもできたかもしれない。しかしその代わりに、グレンコア[訳注:資源、農業の分野で生産、販売、投資を行うスイスの企業]やベダンタ[訳注:英国の資源会社]、あるいは他の企業の株主のポケットを膨らませることになった。

●ロシア
ロシアの金融資産の半分以上にあたる約2,000億ドルが海外に隠匿されているため、年間10億ドルの税収を得ることができない。租税回避は、特に政治エリートの間でよく行われている。プーチン大統領を含む政府高官の親類や知り合いたちは、オフショアの熱心な利用者である。

●中国
オフショアの対象国としては世界最大規模で、2001年から少なくとも1兆ドルの資金が違法に国外に流出している。これは、習近平国家主席の親類を含む国のエリートたちが、中国税務当局の目の届かないところに資産を移しているためだ。

●香港
自国の税務当局の目を逃れたいアジア資本の集積地として急成長している香港は、厳格な秘密主義の法律と金融規制には無干渉主義で通すという2つの特徴が相まって、汚れたカネを引きつけてきた。香港は、中国本土からの汚れたカネを、外国資本として装って再度中国本土に投資する「ラウンドトリッピング」という手法で知られている。


2016年12月号NI498p24-25「The dissimulation game」の翻訳です。c498-100.jpg





  1. 2016/12/30(金) 02:10:34|
  2. ビジネス・企業

【翻訳記事】黒人アメフト選手の抗議方法

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コリン・キャパニック
tomCC BY-SA 2.0


ひとりの抗議活動がいかにして米国中に影響を与えたのか、マーク・エングラーが解説する。

サンフランシスコ49ersは、米国のアメリカンフットボールチームである。その選手のひとりコリン・キャパニックが、2016年8月26日のグリーンベイ・パッカーズとの試合の直前、有名な決定を行った。彼は国歌斉唱の際、立ち上がらずにひざをついたままの姿勢でいたのである。

キャパニックはその姿勢について、人種差別とアフリカ系米国人に警察が行う野蛮な行為に対する抗議だ、と説明した。彼は、「私にとってみれば、それはアメフトよりも深刻なことです。それに目をつむることは、私にとって過ちになると思います。街中には死体が転がり、殺人者がおとがめなしで大手を降って歩いているのです」と述べた。

しかし中にはキャパニックは愛国心がないと考える人もいる。9.11以来、試合前の国歌斉唱は、愛国心を誇示する行為となっている。そして米国国防総省は、この行為を支えるために、プロスポーツチームに多額の寄付を行ってきた。

もちろん、抗議の方法が間違っているとの批判は常に多数ある。リベラルな人々の中にも、キャパニックは敬意を払っていないと言う人もいる。

しかしキャパニックは、他の試合の前にもひざをつき、彼の主張ははっきりしていた。ニューヨーク・タイムズ紙の記者は次のように書いた。「アメフトの試合を見たことがない人、あるいは国歌を聴いたことがない人、または米国の人種関係について全く知らない人でも、キャパニックの抗議の写真を見せればそれが何であるかを理解するだろう」

そして重要なのは、他の人々がその抗議方法をまねできるということだ。

キャパニックが、最も嫌われた米国のスポーツ選手の仲間入りをしたと思われたころ、ある興味深い現象が起こった。サンフランシスコ49ersの別の選手エリック・リードが同じ行動をとったのだ。彼は言った。「私は彼に知って欲しかったのです。彼と同じように感じているのが彼だけではないということを」

そのほかのアメフト選手も同様の行動をとった。マイアミドルフィンズのアリアン・フォスターは、たくさんのチームメイトに抗議を呼びかけた。カンザスシティ・チーフスのマーカス・ピータースは国歌斉唱の際、1968年のオリンピックの際のブラックパワー・サリュート[訳注:メキシコ五輪の陸上競技の表彰台に立った2人の黒人選手が人種差別に抗議するため、国歌斉唱の間、黒い手袋をした拳を突き上げていた行為のこと]のように、拳を突き上げた。

9月中旬までには、多数の抗議が異なるスポーツでも行われた。女子サッカーのスター、ミーガン・ラピノー(彼女は白人)は、抗議のためにひざをついた。彼女は言う。「私たちの国の問題に関して、有色人種の人々だけでなく、皆で抗議する必要があります」。女性バスケットボールのチーム、インディアナ・フィーバーでは、試合前に全員がひざをついた。

高校のスポーツチームも同様だった。オークランドでは、学校の吹奏楽部が国歌を演奏する時にひざをついた。プロバスケットボールチームのサクラメント・キングスの試合では、国歌を歌う歌手がひざをついた。そしてファンさえもが同じ動作をした。

ニューヨーク・タイムズ紙は、2カ月間に多数のキャパニックが全国でひざをついたと報道した。多くの保守的なアメフトファンはキャパニックに賛同していない。しかし、キャパニックの背番号7番のユニフォームの売り上げは増加した。

社会運動においては、どのような抗議方法が最適なのかということをめぐり、常に議論が起こっている。抗議する人々は、役立つ方法と役立たない方法について話す権利を持っている。

しかし、他人の抗議を批判するだけで自分で何もしないのは、好ましいことではない。キャパニックの例にならった多くの人々は、適切な行動を起こした。あちこちでたくさんのキャパニックが、ひざをついている。

by マーク・エングラー
最近“This Is An Uprising: How Nonviolent Revolt Is Shaping the Twenty-first Century” (Nation Books)が出版された。ウェブサイトはDemocracyUprising.com

この記事は、An American footballer makes a protestのシンプル英語版(Easier English)の翻訳です。

※シンプル英語版はシンプルな英文にするために、単語、文章構造、引用が変更されている場合があります。シンプル英語版の翻訳と英文で概要をつかんだら、今度はオリジナルの英文を読んでみましょう。

参考:こちらのNew York Daily News紙のサイトでは、抗議の姿勢をとる選手たちの写真が掲載されています。
Athletes standing up against social injustice during the National Anthem



  1. 2016/12/27(火) 20:56:34|
  2. 市民・ムーブメント

【翻訳記事】クリスマスプレゼントと世界の工場とスウェトショップ(搾取労働)


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2014年7月にサンフランシスコで行われたアップルに対する抗議デモ。プラカードには「DeathPad(死のパッド)」や「中国からサンフランシスコ湾まで、きちんとした仕事をすべての人に」といった訴えが書かれている。
Annette BernhardtCC BY-SA 2.0


クリスマスプレゼントを昼夜働いて作っているのは、サンタクロースの小さな妖精たちではない。それは、わずかな賃金で働く中国人労働者たちだ。アモーグ・ウカエフが報告する。

クリスマスのテレビCM。それは、電子機器、衣類、おもちゃなどの商品を買いたくなるよう視聴者の購買意欲をそそる。

クリスマスには3つの特徴がある。広告と商業主義、買い物と消費、そして西側経済へのより多くのカネの流入だ。2015年、英国の小売業界のクリスマスシーズンの売上は、240億ポンド(約300億ドル)を超えた。これは、ネパールやホンジュラスの国内総生産(GDP)を上回る。この熱狂的な消費は、私たちの購買意欲を増進する広告、マスコミ、ソーシャルメディアの影響だ。

米国では、「ブラックフライデー」や「サイバーマンデー」といった特別なセールの日が作られている。現在それはヨーロッパにも広がった。クリスマス前とクリスマスから新年にかけては、1年でも最も消費が高まる時期になっている。

昨年のセールの週末には、英国人は33億ポンド(41億6,000万ドル)の買い物をした。多くの人々がオンラインショッピングを利用し、サイバーマンデーには、9億6,800万ポンドという途方もない金額が使われた。そして小売業大手(Argos、Tesco、John Lewis)のウェブサイトは、容量を超えてダウンしてしまった。また運輸会社は、オンライン注文された品物の配達を、全部は受け付けられなかった。

 現実世界の妖精たち

サンタクロースの工房で楽しそうに働く小さな妖精たちを思い浮かべてみる。そのイメージは、工場で働く労働者の状況とかけ離れている。世界のおもちゃの80%は中国で作られており、一般に普及しているおもちゃのほとんど全部に「中国製」と記されている。西側諸国の街中でクリスマスソングが流れるずっと前から、その「小さな妖精たち」(彼らは現実世界の中国人労働者だ)は、たくさんの商品を作るために日夜働いている。

中国の玩具工場は、年間28億ポンド(35億3,000万ドル)の玩具を英国に販売している。しかし大手ブランド(例えばレゴやディズニーなど)は、英国内の小売価格に比べるとわずかな代金を工場に支払っているにすぎない。また、おもちゃの価格には、社会的、環境的なコストは含まれておらず、この状況は搾取である。

しかしスウェットショップ[訳注:低賃金、劣悪な労働環境・条件で労働者を働かせて搾取する職場や労働のこと]はおもちゃだけではない。電子機器や衣類でも同様だ。多くの人々がアップル、アマゾン、サムスンのガジェット[訳注:興味をそそられる小型電子機器]を欲しがる。しかしこれらの企業は、ナイキやトップショップ[訳注:英国のファストファッション企業]といった他の有名ブランド同様に、労働者の権利を(サプライチェーン[訳注:製品の原材料からそれが消費者に届くまでの一連の過程]のどこかで)ないがしろにしている。サムスンは、労働者に有毒な化学物質を使用させたり、労働組合を結成しない契約をアジアでは結んでいたとして非難を浴びていた。アップルは、自殺者を出すほどの厳しい職場や労働環境に対して非難を浴びていた。バッテリーを内蔵する機器の50%以上が、コンゴ民主共和国の「紛争鉱物」(コルタン等の鉱物は紛争の資金源となっている)を使用している。

労働者の扱いはひどいものだ。危険な職場環境の中、超低賃金で長時間働かされ、言葉だけでなくしばしば身体的、性的な暴力も受け、基本的人権が守られていない。

世界の多数の工場労働者は、クリスマス商戦に十分な商品を供給できるよう、非常に辛くうんざりするような毎日を送っているのだ。

 行動しよう

クリスマスの時期にもっと買い物をすることは、スウェットショップ労働者を増やすことになる。しかし、購入者に責任を負わせることは誤りだ。そのような商品を購入する多くの人々は、長年給与が上がっていないのかもしれず、金銭的な余裕がなく、安い商品を選ばざるを得ないのだ。Fairphone[訳注:紛争資源を使用せず、スウェトショップでない工場で生産したスマートフォン。また、それを開発、販売しているオランダの社会的企業の名称。]のような商品は高価で、ノートPCでもデスクトップPCでも、パソコンでは「フェア(公正)」な選択肢は存在しない。

スウェトショップは、工場で働く女性により力を与えると言う人もいる。あるいは、貧しい人々に賃金を与えるこができると言う人もいる。しかし場所によっては、スウェトショップでの労働は奴隷労働のようなものなのだ。もしそこに搾取があるのであれば、そこから利益を上げるのは間違っている。

しかし、もし私たちが「地元製を買う」だけにしたら、南の国々の労働者を支援することはできないだろう。多くの労働者たちがスウェトショップで働くのは、他に収入を得る選択肢がないからである。

この問題に取り組む最善の方法のひとつは、労働者を組合に加入させることだ。そうすれば、彼らはより良い賃金と労働環境を求めて闘うことができる。そんなことをすれば工場はつぶれてしまうと言う人がいるが、それは真実ではない。

バングラデシュが好例だ。バングラデシュでは、2013年のラナプラザビルの崩壊で1,000人以上の労働者が死亡したが、その後20カ国以上の多くの衣料品企業(例えばアディダスやプライマーク[訳注:英国のファストファッション企業])が「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関する協定」に署名した。この協定に基づき、現在は1,592の工場が立ち入り検査を受けている。

バングラデシュの最低賃金は、依然として世界最低であるが、それも1カ月38ドルから68ドルに大幅に上昇した。その理由は、抗議活動と労働者が不満を訴えたからだった。

このように、バングラデシュの工場は現在もつぶれずに稼働している。世界では現在、もっと多くの労働者が、より良い賃金と条件のために闘い、仕事を失うか、または警察から弾圧されるかというリスクを負っている。

だが、搾取労働は依然として存在する。私たちは連帯を示す必要がある。1911年、トライアングル・シャツウエスト工場で火災が起こった。このニューヨーク市の工場火災では146人の労働者が死亡した(ニューヨークと米国の労働者は、この火災の後に基本的な権利と保護を手に入れた)。それから100年たつが、私たちは依然として南の国々の人々への同じ基本的な権利と保護を求めて闘っており、このような状況は受け入れがたい。

搾取労働を違法とする法律は現在効果的ではなく、無視されてしまうことも多々ある。労働者の権利の獲得を保証するための政策と法律は不十分で、政府は世界人権宣言を具現化する努力を怠っている。それは、工場を持つ国の政府、製品を買う国の政府どちらもである。従って、この問題に関しては政府にも企業にも責任がある。グローバルな義務は、世界で最もぜい弱な人々の人権の擁護に失敗している。

搾取労働をなくすことは難しいが、それは可能だ。私たちに必要なのは、世界そして各国においても、労働者、企業、政府、消費者などすべての段階で変化を求めることだ。

私たちがMaquila Solidarity Network、Worker Rights Consortium、Electronics Watch、SweatFree Communitiesなどの団体を支援すれば、その団体は、私たちのクリスマスプレゼントが確実にスウェトショップ製でなくなるよう闘っている人々を支援できる。

by アモーグ・ウカエフ

The dark side of Christmas: sweatshops By Amoge Ukaegbuのシンプル英語版(Easier English)の翻訳です

※シンプル英語版はシンプルな英文にするために、単語、文章構造、引用が変更されている場合があります。シンプル英語版の翻訳と英文で概要をつかんだら、今度はオリジナルの英文を読んでみましょう。


  1. 2016/12/23(金) 20:54:56|
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