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【翻訳記事】PISA狂騒曲とピアソン社が描く学校教育

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ccarlsteadCC BY 2.0
(写真は記事とは直接関係はありません)



国際的な学力テストと教育民営化は、どのように連携しながら進んでいるのか。アダム・アンウィンとジョン・ヤンデルが報告する。

新自由主義が描く教育の将来にとって、テストの点数は重要である。それによって基準を示すことが可能になり、新自由主義システム内での説明責任[訳注*]を果たせるようになる。テストの点数で示される結果が頼れるものなのであれば、生徒同士、クラス同士、学校同士、国同士の比較が容易になる。現在、テストに基づいた説明責任へ寄せられる関心はまさに世界的な現象となっており、地域や国レベルでの教育の優先順位と教育政策を方向付けるようになってきている。
[訳注*:本稿ではこの責任について、学校や地域ごとの成績やテストの目標設定と報告に対する責任に加え、学校の生産性(投入予算と生徒の成績)に対する説明責任についても含まれたニュアンスで使用されている]

2000年以来、OECD(経済協力開発機構)が行う定期的なテスト、PISA生徒の学習到達度調査)に参加する国はますます増えている。この、読解、数学、科学の分野が含まれるテストは、15歳を対象に3年ごとに行われる。教育は、徐々にこのPISAの成績に影響を受け始めている。他国のPISAの点数をうらやむ人々は、自国の学校で判明している欠点を改善するために、成績上位国に目を向けて解決策を探すよう政府に求めている。

報道では、成績ばかりに目を奪われ焦った反応が伝えられるが、その報道の根底にある考え方は適切とは言えない。その考え方とは、あるひとつの地域内でうまくいったことは、単純に他の地域にも輸出できるということを前提としたものだ。つまり、もし上海でうまくいったのであれば、それはまさにワシントンでも必要とされている、というように考えるのである。

これは、教育政策を発展させていく方法としては極めておかしな方法だ。ある文化、ある社会の中で行われている学校教育のある一面を切り取り、全く異なる文化と社会に導入するということは、率直に言って不可能である。また、PISAに含まれている「重要なのは検証可能であること」という要素が、カリキュラムを狭めていることは明らかだと思われる。この要素が重視されて時間と資源が費やされるようになるが、その一方でカリキュラムのほかの部分や学びの他の特徴については片隅に追いやられて注意が払われなくなるのだ。

また、PISAは変化しているが、その変化の方向は、民営化を目指す新自由主義マニアの意向を反映し、彼らの後押しをするという方向である。PISAの初期の頃は、テストの開発、データの収集と分析は、専門組織から成る国際的な共同事業体にすべて委託されていた。2013年OECDは、米国でのテスト運営を、教科書と試験の巨大企業マグロウヒル・エデュケーションに依頼した。そして2014年には、教育分野で世界最大の企業ピアソンにPISA 2018の基本構想開発を依頼した。つまり、何をどうやってテストするのかは、ピアソンが決めることになる。ピアソンが現在教育分野で担っている役割について、私たちは注意深く見ていくべきだが、特に南の国々での動きについてそれが求められている。

常に稼ぐ

2015年7月、ピアソンはフィナンシャル・タイムズ(FT)を日本企業の日経に売却した。58年間ピアソンの子会社で国際的にも高い評価を得ていたFTを売却した理由として、ピアソンのCEO(最高経営責任者)のジョン・ファロンは、ピアソンの8億ポンド(13億ドル)あまりの年間利益に対し、FTの貢献が2,500万ポンド(4,000万ドル)にも満たなかったことを挙げた。(1)

年間80億ドル近くの売り上げを誇るピアソンは、教育分野に集中する決断を下したのである。これは、ある種の公民としての責任感によるものではない。どの分野で利益を上げるべきかという、現実的なビジネスの計算から弾き出された決断だ。ピアソンのモットーは、「常に学ぶ(always learning)」ということのようだが、コメンテーターたちが言うように、「常に稼ぐ(always earning)」という方がより適切と言えるのかもしれない。

ピアソンの教育への熱意は最近始まったことではない。ピアソンは、教科書、試験用紙、オンライン学習教材、教育ソフトウエアを制作し、大規模なコンサルタント業務も行っている。しかし、同社が4万人を超える従業員を擁して80を超える国で営業するグローバルな有力企業となったのは、ここ10年でのことだ。(2) PISA 2018の契約が同社に与えられたことは、この背景を含めて考える必要がある。ピアソンがすでに(大きな成功を収めながら)行ってきたことは、同時に教育政策にも影響を与えてきた。その過程で問題を確認し、その解決策も提供してきたのだ(こうして、さらなる利益につながる介入の機会を創出した)。

2011年ピアソンは、教育アドバイザーの責任者にマイケル・バーバー卿を任命した。バーバーは、教育コンサルタント業務を行う企業、マッキンゼーで働いており、英国のトニー・ブレア元首相の主席教育顧問として注目を浴びた。彼はその時、妥協せず、結果重視、市場をベースとした公共政策へのアプローチ「伝達・達成学」を提唱した。(3)

バーバーは、旧態依然で硬直した公共サービスの欠陥と欠如に対する処方箋として企業のイノベーションを用いるために、民間セクターに優位性があることを前提として物事を進めて政府内で多大な影響力を誇っていた。従って彼は、公的な学校教育に代わる利益促進を目的とした代替策を模索する企業にとって、うってつけの人材だった。2012年バーバーは、アフリカとアジア(特にインド、パキスタン、南アフリカ、ケニア、ガーナ、フィリピンといった高い成長を誇る新興国)で低料金の私立学校を支援する営利目的のベンチャーファンドとして、ピアソン・アフォーダブル・ラーニング・ファンド(PALF)を立ち上げた。

ビアソンは、すでにケニアに400校、ウガンダに7校を開校していた営利目的の企業チェーン、ブリッジ・インターナショナル・アカデミア(BIA)を買収した。そして、ナイジェリアとインドに進出する計画を立て、2015年までに1,000万人の生徒に対応できるようにする目標を掲げていた。この野心的な計画の特徴は、もちろんその規模にあるが、それがまたピアソンの投資戦略の原動力ともなっている。しかし、これと同じように特徴的で目を引くのは、その学校教育の将来像である。

BIAのビジネスモデルの戦略的特徴は、垂直統合された「アカデミーインナボックス(Academy-in-a-box)モデル」(「スターバックス式」学校教育とも呼ばれている)を基本としていることだ。これは、カリキュラムと教授法も対象に、プロセスや手法の大胆な標準化を伴うもので、企業が素早く展開して莫大な経済規模を達成することが可能な、データ分析とテクノロジーに大きく依存する。脚本が用意されたカリキュラムでは、教師が授業のどの部分で何をして何を話すべきかについて指示と説明が用意され、それがBIA本部とつながったタブレットPCを通じて送信され、授業計画と比較しての進捗と内容の確認、評価のための観察が行われる。(2)

このように、BIAが提供するのは、民営化、中央統制、結果中心といった特徴を持つ新自由主義教育のお手本である。費用効率は、規模が大きいことによるメリットだけでなく、この方式のユニークなセールスポイントによっても保証される。それはつまり、タブレットPCがあれば、誰が有能な教師を必要とするのだろうか、ということである。

ピアソンは、市場の中でもまだ未開拓な地域に進出していくことを目指す他の教育ビジネス企業と同様に、低料金の私立学校で遂げた成功を喧伝している。たとえば、学校とは無縁だった最貧層の子どもたちも利用し、競争にさらされているため公立学校よりも効率的で、より良い結果とより高い水準をもたらす、といった具合だ。

既存制度への打撃

これらの主張のほとんどは、独立した調査研究による裏付けはとれていない。これまでに行われている最も厳格な検証によれば、このような主張について少なからぬ疑いが生じている。(4) 学校とは無縁だった子どもたちに学校教育を提供するというよりは、低料金の学校は公立学校と競争しながら運営されているため、既存の制度にさらなる打撃を与えているように思われる。

しかしこの議論は、いかなる状況においても、多くの客観的な評価データを集めたからといって解決するものではない。なぜならそれは、教育とは何か、教育は何を目指すべきものなのか、という人々の見解に依拠するものだからだ。もしも教育というものが日用品で、脚本に沿った授業と「アカデミーインナボックス」のための必要品とシンプルな標準テストで測定可能な要素をひと揃えにして援助として運んで行けるものであれば、何も心配することはない。ピアソンは確かに常に学び、常に稼いでいくことだろう。

しかし、教育と名の付くものはそうではなく、そんな手法や製品と同様の扱いを受けるものではない、と言うのであれば、ジョン・ファロンやマイケル・バーバーが私たちに売り込むものに対する何らかのオルタナティブ(代替案)をきちんと深く考える必要がある。◆

by アダム・アンウィン&ジョン・ヤンデル

(1) The Guardian nin.tl/Pearsonboss
(2) Carolina Junemann and Stephen J Ball, Pearson and PALF, Education International, Brussels, nin.tl/Pearsonmutating
(3) Michael Barber et al, Deliverology 101, Corwin/SAGE, Thousand Oaks, 2011
(4) Laura Day Ashley et al, The role and impact of private schools in developing countries, nin.tl/privateschoolsSouth

NIブログ記事"PISA-envy, Pearson and Starbucks-style schools"の翻訳です。

翻訳協力:中村一郎


アダム・アンウィン&ジョン・ヤンデルの近著
"Rethinking Education: Whose Knowledge Is It Anyway?"
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  1. 2016/10/28(金) 02:06:23|
  2. 子ども・教育