NIジャパンブログ

【翻訳記事】反移民で結束するヨーロッパ


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ハンガリー南部のSzeged難民キャンプ
Martin LeveneurCC BY-ND 2.0


欧州市民社会は、難民に対するハンガリーの姿勢をこれまで率直に非難してきた。

ハンガリーではビクトル・オルバン首相による反移民キャンペーンが行われてきたが、10月2日の国民投票(投票率40%)では、投票者の98%が「ハンガリーの外国人受け入れ分担」に反対した。

この問題に関心を持つ人の多くはこの国民投票を、「古いヨーロッパ」とヴィシェグラード諸国(ハンガリー、チェコ、ポーランド、スロバキア、以下V4)間に横たわる深い溝の象徴と見る。

V4の難民受け入れへの消極姿勢は欧州連合(EU)の「価値感」とは相容れないものだ、と彼らは言う。

しかしV4のリーダーらは、庇護を求める人々の移動の自由を否定し、彼らをシェンゲン圏から可能な限り遠く離れた場所にとどめておくことを目指し、できれば収容所に収容するという国境管理の主要原則を盾に強気である。

2015年末の数週間、ドイツとオーストリアが「バルカンルート」からの難民に国境を開いたが、それに反対したのはV4だけではなかった。

その歓迎政策は難民に関する欧州ルールを全て破り、EUの中心地域とさまざまなメンバー国は真にパニックと呼ぶべき状態に陥った。

今年2月、マニュアル・ヴァルス仏首相はミュンヘン訪問の際に、「難民をこれ以上受け入れることは不可能だ・・・。これまで議論し交渉してきたこと、つまり『ホットスポット(難民関連手続きを行う難民管理センター)』運用や対域外国境監視などを実行する時が来た」とメルケル首相に非難めいた口調で話した。その言葉は、EUの創設理念に含まれる他国に庇護を求める権利をEUが20年以上にわたっていかに踏みにじってきたのかを、私たちに思い出させてくれるものであった。

EUは、庇護を求める権利よりも国境管理を重んじ、祖国を追われた人々がジュネーブ条約や国際協定に沿って難民申請手続きを行うことを妨げてきた。

ヨーロッパの規則、特にダブリン規約は、祖国を追われた人々を「到着国」に集結させて次の国への移動の自由を制限する。ドイツ国境が再び閉鎖され、メルケル首相が他の欧州諸国とこれまでずっと共有してきた元の方針に戻った後は、イタリアやギリシャに向けて、EUの「安全」が確保できず、「難民流入」に不十分な対応しかできていないことへの非難や不平、不満の言葉をぶつけることができた。

欧州委員会が2015年春から推し進め、2016年2月から積極的に運用したホットスポットは、「移民危機」の解決策を提示したものだった。それはつまり、欧州諸国から職員を派遣して移民の身元確認と手続きの優先度を決めるキャンプをギリシャの島々やイタリアに開設し、海を渡ってEU国境にたどり着く難民をもっと多数追い返そうとするものである。このような目的を追求するため、トルコを「安全な国」として認定し、2016年3月にレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と協定が結ばれた。欧州委員会は「送還者」数を増やす方向で、「経由国」や「出身国」からより一層の協力を得ようと数カ月の間議論を行ってきた。

次の国への「移送」策そのもの、つまりギリシャやイタリアに到着した庇護を求める人々をEU諸国間で受け入れ分担するという暫定ルール自体でさえ、ホットスポット運用が押しつけられて変更されてしまった。

2016年9月26日、当初見込まれていた数の10%にも満たないわずか5,600人が「移送」された。同日、誰もが劣悪この上ないと批判するギリシャのキャンプに6万人以上が押し込まれた。今後、「移送」人数は減少しそうである。開始後すぐに、移送策は失速してしまったのだ。

7月、国連人権高等弁務官は、エーゲ海諸島が「広大な抑留地帯」になってしまったことに懸念を示した。2016年の始めから数えても、エーゲ海では4,000人以上の人々が死亡した。このようにエーゲ海が広大な墓場と化した後、ギリシャはヨーロッパの政策によって収容キャンプ列島に変えられつつある。

この状況は、人権擁護を訴える人々にとっては衝撃だった。しかしそれは、EU域外に難民抑留施設を作って管理する方がむしろ好ましいと考える多くの国の指導者たちの間にも不安を広めた。ビクトル・オルガン首相は9月24日、英国のトニー・ブレア元首相の2003年の提案を持ち出し、難民を送るべき場所として「EUが資金を出して警備も行う大規模難民キャンプを作るべきだ」、難民は「難民申請審査期間中そこで待機することを義務づける」べきだ、と述べた。彼の言葉は深刻に考える必要がある。ハンガリーはシェンゲン圏において国境を実際に封鎖した最初の国だったかもしれないが、その後その方法は他国にも取り入れられ、特にフランスと英国で顕著になっているからだ。

ハンガリーがセルビアとの国境沿いに「反移民の壁」を築いた時、当時のフランスの外相ローラン・ファビウスは、「動物用にも張らないような場所に人間用のフェンスを張るなど、ヨーロッパの価値観を尊重してない」と述べた。

しかし、キャンプと壁の世界を推し進めるのはハンガリーの首相のプロジェクトだけではない。それは20年にわたってEUとその加盟国を含む多くの国々によって進められてきた移民政策の主要な特徴でもあるのだ。

本稿は、Open Democracyに2016年10月11日に掲載された記事に加筆、修正したものです。

エマニュエル・ブランチャード
移民の疎外化や送還、国境封鎖、移民管理を国外で実施する政策に反対するヨーロッパとアフリカ間のネットワーク、Migreuropの会長。


NIブログ記事"Europe: united against refugees"の翻訳です。

翻訳協力:斉藤孝子


  1. 2016/12/11(日) 10:53:26|
  2. 暴力・平和・人権

【翻訳記事】闘争最後の日々:写真で見るFARC最終会合

コロンビアでの歴史的和平合意に向けた国民投票の準備が進む中、FARC(コロンビア革命軍)内でもその日に向けた準備が進む。キンバリー・ブラウンがその様子を写真で報告する。

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FARCのゲリラ兵、デビッド・プレシアド。14才で入隊し、兵歴19年の33歳。政府軍との戦闘で6回被弾し、医師たちから切断を強いられ左腕を失った。 © Kimberley Brown

10月2日にFARCとの歴史的合意について国民投票が行われるコロンビアは、52年間にわたる内戦に終止符を打つチャンスを迎える。

FARCは、コロンビア内戦における最大のゲリラ勢力で、マルクス・レーニン主義の農民勢力として1964年にスタートした。ジャングルの中でこの反政府勢力が集まって会議を開き、彼らの今後の政治的立場を討議したのち、9月26日にティモレオン・ヒメネス最高司令官(別名「ティモシェンコ」、本名は「ロドリゴ・ロンドニョ」)とフアン・マヌエル・サントス大統領が和平文書に署名した。


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何もないへんぴな場所に設置された立派な巨大ステージ。FARCが会合用に設置したこの会場ではコンサートが行われ、伝統音楽ホローポからレゲエ・フュージョンまで、毎晩あらゆる音楽が演奏された。 © Kimberley Brown

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閉会式でのFARC指導者ティモレオン・ヒメネス(またの名を「ティモシェンコ」)とイバン・マルケス。この時、FARCの全陣営が和平協定に同意したことが発表された。 © Kimberley Brown

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会合が行われた1週間に、500を超える国内外の報道メディアやオルタナティブ・メディアが訪れた。メディアの大半が機会をうかがっていたのは司令官クラスとのインタビューだった。しかし、彼らは非公開会談を一日中行っていたため、その機会はほとんどなかった。ある日、会談を行っている部屋への入室が2時間限定で許され、メディアが殺到した。そして、その場にいた指導者らは質問に簡単に答えた。 © Kimberley Brown

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FARCゲリラ兵ノルベイ・ヘルナンデス・アポロ。彼は1996年に13歳で入隊した。彼いわく、グアビアーレ県の貧しい農村部で育ち、そこでは学校には行けず仕事もなかった。FARCに入隊した理由は、教育も含めたより良い機会の申し出があっただけでなく、コロンビアにおける平等のために闘おうという彼らの言葉を信じたからだったという。 © Kimberley Brown

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第10回全国ゲリラ会合(9月17日から23日)のためにエル・ディアマンテ地区に設けられたFARCの野営場のひとつ。この地区は、アマゾンのジャングルに隣接するメタ県とカケタ県の県境に位置し、かつてはゲリラと政府軍との激戦地であった。 © Kimberley Brown

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ゲリラ兵が使用する1人用宿泊ユニット。これを彼らは「カレッタ」と呼ぶ。新しい野営場所に到着後、各自が最初にすることが、自分のカレッタの設営だ。これには40分から最長2時間かかる。その他の施設はゲリラ兵同士が協力しながら設営する。 © Kimberley Brown

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カレッタで座ってタバコを吸う女性ゲリラ兵。女性たちは、FARC内で男性優位を感じることはほとんどなかった。彼らは、「チームとして」任務を分担しているそうだ。女性兵の割合は、全FARC兵の40%を超えている。 © Kimberley Brown

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© Kimberley Brown

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食肉用に朝に解体した牛から肉を切り取るゲリラたち。食肉処理は、肉が傷まないよう素早く行い、ジャングルの灼熱が始まる前の早朝に行う必要がある。 © Kimberley Brown

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朝に解体した肉を調理するゲリラたち。 © Kimberley Brown

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FARCゲリラ兵、デビッド・プレシアド。14才で入隊し、兵歴19年の33歳。政府軍との戦闘で6回被弾し、医師たちから切断を強いられ左腕を失った。 © Kimberley Brown

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群から脱走した牛を捕まえるゲリラ兵。 © Kimberley Brown

by キンバリー・ブラウン

New Internationalist 11月号"Peace in Colombia? Hope and fear "(「平和を模索するコロンビアの希望と不安」)では、この国の事情を深く探っています。

NIブログ記事"The last days of war: FARC's 'final conference' in pictures"の翻訳です。

翻訳協力:斉藤孝子



  1. 2016/11/05(土) 23:20:23|
  2. 暴力・平和・人権

【翻訳記事】身近な監視とプライバシー


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csaila (CC BY-NC-SA 2.0)


私たちを奴隷のように扱う監視ビジネスの秘密を、ブルース・シュナイアーが暴く。

毎朝携帯電話をポケットに入れて出かけることによって、あなたは暗黙のうちに携帯電話会社に有利な取引を行っている。「私は携帯電話で電話をかけたり受けたりしたい。その代わりに、その携帯電話会社が私の居所を常に把握することを許可する」

この取引は、契約書のどこにも書かれてはいない。しかし、携帯電話システムの仕組みとしてもとから備わっているものである。

これは、非常に身近な監視だ。携帯電話を通じて、あなたの自宅や職場がどこにあるのかも分かる。あなたがいる区域内の他の携帯電話をすべて把握できるため、あなたが一日を誰と過ごし、誰とランチに行き、誰と夜を過ごしたのかも分かる。

蓄積されたデータは、あなたがどのように過ごしていたかをあなたよりももっと詳しく描き出すことができるだろう。2012年研究者らは、この種のデータを使って人々が24時間後にいると思われる場所を20メートルの範囲に絞り込んで推測した。

あなたの位置情報には価値があり、あなたをリアルタイムで追いかけることに懸命な産業が存在する。企業は携帯電話を通じて店の中であなたを追いかけ、どんな買い物をしているのかを知り、街中での動きを追って特定の店にどの程度近づくのかその可能性を判断し、現在いる場所をもとにショッピングの広告をあなたの携帯電話に送信する。あなたの位置情報はとても価値があり、今では携帯電話会社はその情報をデータ仲介会社に販売する。そのデータ仲介会社は、カネを払ってくれる相手であれば誰にでもそのデータを販売する。センス・ネットワークスのような企業は、このようなデータを使ってひとりひとりの個人プロファイルを作ることを専門的に行っている。

米国のベリントは、世界中の企業や政府に電話追跡システムを販売する。同社のウェブサイトには、ベリントは「カスタマーエンゲージメント最適化、セキュリティ・インテリジェンス、不正、リスク、コンプライアンスのためのアクショナブル・インテリジェンス・ソリューションで世界をリードする企業です。180カ国以上、1万を超える組織が当社の顧客です」とある。

コバムは、電話を鳴らさず探知もできない「ブラインド」[訳注:不明、匿名の意]な電話をかけることが可能なシステムを販売している。このブラインド・コールは、電話機に特定の周波数の電波を出させ、コールした方はそれによってその電話の場所を1メートルの範囲に絞り込んで探知できる。この英企業は、顧客にアルジェリア、ブルネイ、ガーナ、パキスタン、サウジアラビア、シンガポール、米国の政府がいることを誇りにしている。

パナマに登記しているディフェンテックは、「世界のいかなる電話番号であっても、その電話番号の相手だけでなく、ネットワークと携帯電話会社にも気づかれずにその居場所を突き止めて追跡すること」が可能なシステムを販売する。

 封建制度のような関係

携帯電話の位置情報だけではない。コンピューターが私たちのあらゆる行動と深く統合されていることや、コンピューターの記憶装置の価格が非常に安くなっており、私たちが生み出す全データを制限なく保存するのも夢ではなくなってきていることに気づいている人はほとんどいない。

私たちが生み出すデータは、すべて監視に使われている。それは自動的に、しかもほとんど目に見えない隠された形で行われている。監視データは、たいていの場合は私たちが顧客やユーザーとしてかかわる企業によって集められている。2012年ニューヨークタイムズ紙は、広告で優位に立つために企業がいかにして私たちのデータを分析しているのかを記事にした。その中には、ミネアポリスに暮らす男性に関する逸話が含まれていた。それによればある男性は、自分の10代の娘にターゲットという企業のネットショップからベビー用品のクーポンが送られてきたとして同社に抗議した。しかし、ターゲットのそのクーポンは、必要とする人に正しく送られていたことが後に分かったというものだ。

もしも誰が追跡しているのかを確認したければ、LightebeamやDoNotTrackMe[訳注:現在はBlur]などのプラグイン[訳注:付加プログラム]をインターネット閲覧時に使うブラウザにインストールしてみるとよい。これらのプラグインを使えばクッキー[訳注:各ウェブサイトを訪問した時にその情報をパソコン内に保存しておくファイル]を監視することができる。あなたがその結果に驚がくすることは間違いない。ある人が報告しているが、彼の場合は36時間で105の異なる企業が彼のインターネットの使用を追跡していたことを発見した。*

監視は、人々が主に「無料」と「便利」という2つの点を好むため、インターネットにおけるビジネスモデルとなっている。「無料」は特別な価格であり、それに対して人々は理性的な対応ができない。そして無料よって私たちの利益と代価に関する感覚はゆがめられ、個人情報をその価値以下でやり取りすることになってしまう。もし無料のものを使うのであれば、あなたは顧客ではなく製品となる。

私たちが依存する多くのインターネット企業と私たちの関係は、これまでの企業と顧客の関係とは異なる。私たちは、これらの企業が真の顧客に販売する製品のようなものなのだ。封建制度で例えると、企業は領主のような地位におり、私たちは彼らの小作人である。そして私たちは、領主が売って利益を得るデータを生産しているのである。

 スパイ国家

政府は、テロリストや犯罪者を見つけるために、また政府にもよるが、政治活動家や環境活動家、消費者運動家、思想や宗教に独自の考えを持つ人々を見つけるために、すべての国民をひそかに探りたいと考えている。

企業と政府の監視は結びついており、世界に広がる政府と企業の監視パートナーシップによって支えあっている。これには公式な合意があるわけではなく、お互いの関心が重なる部分で協力関係にあるというのが現状に合った言い方になる。

米国の国家安全保障局(NSA)の監視に関してエドワード・スノーデンが暴露したことにより、この政府と企業の監視パートナーシップには不協和音が生じたが、依然として両者の結びつきは強い。NSAは、関心を寄せている多数の個人の情報を提供するようマイクロソフト、グーグル、アップル、ヤフーなどのインターネット企業に合法的な圧力をかける。これらのネット企業は、データを提供するようしばしば裁判所命令を受けるが、その命令はほとんど秘密裏に出される。また別の手段としてNSAは、これらの企業の許可無しにそのシステムへのハッキング(侵入)も行ってきた。

英国の情報機関である政府情報通信本部(GCHQ)は、世界中の大半の通信にアクセスできるようブリティッシュ・テレコム(BT)やボーダフォンなどの企業に料金を支払っている。ボーダフォンは、アルバニア、エジプト、ハンガリー、アイルランド、カタールなどおそらく計29カ国に対し、各国国内につながるインターネット通信基盤を提供している。

イタリアのサイバー兵器製造企業であるハッキング・チームは、コンピューターとスマートフォンのオペレーティングシステム[訳注:Windows、iOS、Androidのような基本ソフトのこと]に使用できるハッキングシステムを世界中の政府に販売している。その顧客には、アゼルバイジャン、コロンビア、エジプト、サウジアラビア、トルコ、モロッコといった政府が含まれる。

レイセオン、ノースロップグラマン、ハリス・コーポレーションなどの米国防衛大手企業のほとんどは、米軍用にサイバー兵器を開発している。シリアはドイツのシーメンス、リビアのカダフィ政権は中国のZTE、サウジアラビアは南アフリカのVASTechを採用した。

政府による政治的、法的な直接支配が及ばない企業の製品に対して、政府が秘密裏に「バックドア」[訳注:裏口、勝手口という意味で、システムへの正式なアクセスルートではない秘密の侵入口のこと]を仕掛けているかどうか私たちには分からない。しかし、多くのコンピューターセキュリティの専門家は、それは現実に行われていることだと考えている。

2013年に開催されたあるテクノロジーの会合においてグーグルのエリック・シュミットCEOは、参加者を安心させようと次のように述べた。「現在グーグル内の情報は、いかなる政府の詮索好きなまなざしからも安全であると強く確信しています」

より正確な言い方をすれば、発言は次のようなものになったであろう。「あなたのデータはいかなる政府からも安全です。ただし、当社には分からない場合と、当社があなたに言えない場合を除いてです」。また、シュミットが言わなかった別のこともある。「もちろん、当社はすべてのデータに完全にアクセスすることができます。誰であれ当社が望む相手にデータを売却することが可能です・・・・・・あなたがその代償を求めることはできません」

 プライバシーはなぜ重要なのか

旧東ドイツのシュタージ(国家秘密警察)やアルゼンチンの独裁者アウグスト・ピノチェトからグーグルのエリック・シュミットまで、監視を擁護する人々は、「隠し事がなければ何も恐れることはない」という古い格言を決まったように持ち出してくる。

これは、プライバシーの価値を危ういほどに狭めた考え方である。プライバシーは、人間にとって不可欠な要求で、私たちが世界とどう関係していくのかをコントロールするために、私たちの能力の中心に位置づけられたものである。プライバシーを丸裸にすることは、根本的に人間性を奪うことにほかならない。また、監視を行っているのが私服警官であれコンピューターのソフトウエアであれ、どちらでも同じことだ。

政府による大規模な監視は、テロから国民を守るといった安全上のメリットがあると言われる。しかし、大規模監視によって本当にテロ防止に成功したかどうかはこれまで実証されていないし、大規模監視による害についてはかなりの証拠が挙がっている。監視がいたる所に存在する大規模監視は、インターネットの安全性を低いままにしておくことになり、それによって敵対する政府、犯罪者、ハッカーに対する安全性を低下させてしまう。

私たちは、政府と企業の監視から自分自身を守る必要があり、新たなテクノロジーとどう付き合っていくのかについては、一歩先をゆく行動をとる必要がある

その治療方法は、その病根同様複雑だ。対処するには、プライバシーへの評価と監視に対する私たちの認識を転換させる必要がある。なぜなら、社会がその要求を始めなければ、本格的な法律改革を成し遂げることはできないからである。

今のところ、プライバシーは恐怖に打ち負かされており、テロに対する恐怖が独裁政治に対する恐怖を打ち負かしている状況にあるのだ。◆

本稿は、ブルース・シュナイアー著『Data and Goliath: The Hidden Battles to Collect Your Data and Control Your World』(Norton/2015)からの抜粋。ブルース・シュナイアーは、セキュリティー技術の専門家で、ハーバード大学ケネディ行政大学院のフェロー務める。彼のウェブサイトはこちら。
https://www.schneier.com

*あなたを追跡する企業のほとんどは、Rubicon Project、AdSomar、Quantcast、Plus 260、Undertone、Traffic Marketplaceなど全く聞いたことがないものかもしれない。

[参考]
2010年に米国ペンシルバニア州立大学で行われたTEDでのブルース・シュナイアーのプレゼン「セキュリティの幻想」の動画。
https://www.ted.com/talks/bruce_schneier?language=ja


2016年7/8月合併号NI494 p16-17「I spy with my little algorithm…」の翻訳です。c494-100.jpg

  1. 2016/07/28(木) 00:37:16|
  2. 暴力・平和・人権

【翻訳記事】武器取引とイエメン空爆

モカマタリ 2016年1月に都内の輸入食料品店に掲示されていたお知らせ


サウジアラビアは、長い間兵器システムに多額の資金をつぎ込んできたが、それを使用することはほとんどなかった。湾岸戦争(1990~91年)では、サウジ軍は自軍のほとんどのハイテク兵器の使い方を分かっていないという報道もあった。

しかしそれも変わった。2015年3月、スンニ(スンナ)派の有志連合は、イエメンの首都サヌアを支配した反政府勢力フーシー派[訳注:イスラム教シーア派。イエメン政府とサウジ政府はスンニ派が権力を握る]をたたきつぶすべく激しい空爆を開始した。

イエメンの人々の被害は甚大である。

【これまでの被害】
・国連によれば、2015年には5,700人以上が殺されたが、およそその半分が民間人であった。(1)
・市場、工場、民家、学校、保健医療施設も攻撃対象となった。その中には、NGOの国境なき医師団が運営する病院やオックスファムが支援した学校も含まれている。(2)
・サウジは空爆で、国際条約で禁止されているクラスター爆弾を使用した。(3)
・2015年12月までに、150万人のイエメン人が国内で避難を余儀なくされ、人口の3分の1近くにあたる760万人以上が食料支援を必要とする深刻な状態に陥った。この主な原因は、集中的な爆撃とサウジによる封鎖によって、イエメンに不可欠な物資の供給が滞っているためである。(1)

【ぬれ手にアワ】
イエメン空爆はサウジの兵器取引先にとって大もうけの機会となっている。

主要取引先は英国(サウジの武器貿易の36%を占める)、米国(35%)、フランス(5%)だ。(4) カナダは、もうけの大きな15億ドルの軽装甲機動車の売却契約を結んだ。(5)

2010年から2014年の間にサウジアラビアが購入した武器は、2005年から2009年の間の4倍に上っている。(4) 2014年、サウジアラビアは世界最大の武器購入国となった。

2010年5月から2015年5月の間に、英国政府は約83億ドルの武器売却に許可を出した。それには、ホーク攻撃機とタイフーン戦闘機、自動小銃、催涙ガス、爆弾ユニット、軍用車両、照準装置などが含まれる。(6)

2015年3月にイエメン空爆がエスカレートし、サウジアラビアへの武器売却もふくれあがっていった。

・2015年7月英国は、英空軍用として保管していた2億3,400万ドル相当のペイブウェイIV精密誘導爆弾(500ポンド)をサウジアラビアに移転(輸送)した。(7)
・英国は2015年3月から9月までの間に、サウジアラビアに対する37の兵器輸出に移転許可を出した。(8)
・10月米国は、サウジアラビアとの間でロッキード・マーティン社製戦闘艦(最高で4隻まで)に対する112.5億ドルの取引を承認した。これには兵器、訓練、輸送支援も含まれている。(9)
・11月米国国務省は、レーザー誘導爆弾や「一般用途」の爆弾と誘導システムを含む12.9億ドル相当の空対地兵器の売却を許可した。(10)

これらの武器売却への賛同をとりつけるために議会と国民に示された理由は、サウジアラビアが「テロ対策」で使い切ってしまった在庫を補充するため、というものだった。

【抗議】
人権キャンペーン活動家やその他の人々も憤っている。米国ではNGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が、サウジアラビアへの爆弾売却を否決するよう議会に呼びかけている。

「米国は、イエメンの民間人を多数殺害しているサウジ主導有志連合の無差別攻撃を十分認識しています」。こう述べるのは、HRWのジョー・ストーク広報官だ。「サウジにさらに爆弾を提供するという行為は、もっと多くの民間人の死者を出すことにつながります。米国はこの責任の一端を負うことになります」(10)

サウジアラビアに売却された英国製ミサイルが、国際法に違反して民間目標の攻撃に使われたことが分かり、アムネスティ・インターナショナルは、これ以上の航空機用弾薬の売却を停止するよう呼びかけた。(11)

英国でも有数の弁護士であるフィリペ・サンズ、アンドリュー・クラッパム、ブリンネ・ニ・ガラレイが調査を行った結果、英国がサウジアラビアにイエメンで使用する武器を供給することで、英国は国内法、EU(欧州連合)法、そして国際法にも違反しているという結論が出た。(12)

そしてまた、武器貿易反対キャンペーン英国のアンドリュー・スミスは次のように述べる。

「その政権に対するすべての武器の禁輸措置を即座に行い、思慮を欠いた政治的支援もやめる必要があります。最終的に英国政府がもうたくさんだと言う前に、あと何人が拷問され、殺されることになるのでしょうか?」

英国の人々は禁輸に賛成のようだ。英国の調査会社Opinium LLPによれば、成人の62%はサウジアラビアへの武器売却に反対で、支持しているのはたった16%である。(13)


出典:
(1) Al Jazeera
(2) trunews.com
(3) The Guardian
(4) SIPRI
(5) Middle East Eye
(6) CAAT
(7) Defense News
(8) The Guardian
(9) RT
(10) Human Rights Watch
(11) Amnesty International
(12) Amnesty International
(13) CAAT

2016年3月号NI490 p15「Arming up... and bombing Yemen」の翻訳
英文はUKサイトに掲載

  1. 2016/03/19(土) 22:50:20|
  2. 暴力・平和・人権
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【翻訳記事】「世界的な難民危機 ― その事実」

本記事の完全版(英語)はUKサイトで閲覧できます
(データは本ブログ記事よりもアップデートされています)
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●交戦中の世界(1) ― 人々はどこからやって来るのか

いくつかの国(特にシリア)における戦争、高まる危険、人権への懸念は、世界的な亡命希望者と難民の激増の主な要因となっている。

難民の出身国トップ10
シリア
アフガニスタン
ソマリア
(この上位3カ国だけで53%を占める)
スーダン
南スーダン
コンゴ民主共和国
ミャンマー
中央アフリカ共和国
イラク
エリトリア

アフリカ、中東、アジア、ヨーロッパにおける戦争によって、2014年に移住を余儀なくされた人々は1,400万人近くに膨れ上った。

◎到着した難民の一例
(記載ないものは2014年のデータ)
・11万6,000人の中央アフリカ共和国人がチャドへ
・17万人の難民がスウェーデンへ 2015年末時点(2)
・25万2,000人の南スーダン人がエチオピアへ
・27万1,000人のウクライナ人がロシアへ
・28万3,000人のパキスタン人がアフガニスタン
・80万人の難民がドイツへ 2015年末時点

●それは先進国ではない(1) ― 人々が向かう先は?

ほとんどの難民が保護を求めて向かうのは、先進工業国ではない。10人のうち9人近くは、近隣の国々に一時避難先を見つける。また一方で、それよりも多くの人々が各国内で避難民となっている。

紛争によって住まいを追われた人々の数(2014年)
世界合計5,950万人
 難民:1,950万人
  86%は開発途上国が受け入れている
  42%は国民1人あたりのGDP(国内総生産)5,000ドル以下の国々が受け入れている
 国内避難民:3,820万人
 亡命申請中:180万人

◎2015年の受け入れ上位6カ国(5)
トルコ   220万人
パキスタン 151万人
レバノン  120万人
イラン    98万2,000人
エチオピア  70万2,500人
ヨルダン   66万4,1000人

◎次のたった5カ国でシリア人難民の95%を受け入れている。
トルコ
レバノン
ヨルダン
イラク
エジプト

◎次のたった2カ国でアフガニスタン人難民の95%を受け入れている。
パキスタン
イラン

●安らぎの場所になるとは限らない

亡命者としての受け入れを求める人々が、苦難を乗り越え安全な国に到着したとしても、認定を得られる保証はない。

◎2014年の欧州連合(EU)への亡命申請数(3)
 申請:57万人
 認定:18万4,665人*
*亡命認定までには長い時間が必要で、このうちの多くが前年あるいはそれよりも前に申請していた可能性がある。

●安全を求めて ― 人々はなぜ移動するのか

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の資金不足は慢性化している。食料の配給が減少、あるいはなくなり、教育の機会は失われ、人々は自前でなんとかせざるを得なくなっている。

◎UNHCRの資金不足と援助対象難民数(%は必要額のうちの不足した割合)
2010年:36% 3,390万人
2011年:37% 3,540万人
2012年:39% 3,580万人
2013年:39% 4,290万人
2014年:45% 5,490万人

◎優先順位への疑問
・2015年の国連の緊急援助予算の不足額合計(4)(5)
 →103億ドル:2015年の国連の緊急人道援助予算の不足額
・100億ドル:米国がシリアのIS(イスラム国)の空爆に費やす1年間のコスト

出典:
(1) World at War, UNHCR Global Trends in 2014.(PDF)
(2) "Sweden introduces border checks as refugee crisis grows " The Guardian
(3) "Migrant crisis: Migration to Europe explained in seven charts" BBC Europe
(4) UNOCHA Financial Tracking Service
(5) "Up to 10 former HBOS executives could be banned over collapse, damning report finds" The Telegraph
(6) UNHCR Mid Year Trends 2015.

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※2016年1/2月合併号NI489 p9「An Act without action(Kenya)」の翻訳

  1. 2016/03/09(水) 22:55:29|
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