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【翻訳記事】世界の国のプロフィール:カンボジア


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英語の記事はこちらのUKサイトで閲覧できます


プノンペンで建設工事の音が聞こえない場所はほとんどないだろう。夜が明ければ、昔から首都ではなじみの路上の物売りの口上とバイクタクシーのクラクションという音に混ざり、現在ではあちこちからビル建設の工事音が聞こえる。実際カンボジアでは、建設分野への投資は記録的なブームで、過去5年でそれは3倍となり、2016年は合計で70億ドル以上の建設計画に認可が下りた。低層の建物がほとんどだったこの町に、ショッピングモール、マンション、複合娯楽施設が見下ろすようにそびえ立つ。これらは、カンボジアが消費の文化とトレンドを従えてグローバルな資本主義の世界に仲間入りを果たした記念碑なのである。

10年以上にわたる大量殺りくと内戦を経て、たった20年前から壊れやすい平和を少しずつ取り戻している国にとって、現在進む数え切れないほどの新しい建設プロジェクトは、進歩の象徴として待ち望まれていた光景なのかもしれない。しかし、このような性急な都市基盤造りのように、カンボジアの表面的な近代化は危うさをはらんでいる。国全体としての生活水準は向上し、到来した経済成長でアジアの「タイガー経済」の異名をとるカンボジア。しかし、30年にわたるフン・セン首相の支配の間、大多数のカンボジア人にとっての公平な社会、経済、政治を実現するために行われたことは、ほんのわずかである。

建設現場では推定30万人が働き、労働者のほとんどは地方から出てきた人々で、その多くは子どもたちである。彼らは1日7ドルあまりで危険な環境の中で重労働を強いられ、まるで強制労働のような状況で働いている。同じような状況に置かれているのが、この国の経済を支えるもうひとつの屋台骨である衣料品産業だ。100万人の労働者が首都プノンペンの無数にある工場にやって来て、不安定な短期雇用契約の下、安い場合は1日4ドルで働いている。この状況とは対照的に、新しく見いだされたカンボジアの富は、政治、ビジネス、軍による目に見えない編み目で構成される支配層のエリートたちによって吸い上げられている。

カネの流れと同じように、政治の力も集中したままだ。公式には、決まった期間で選挙が行われる議会制民主主義の制度の下、1998年からはフン・セン首相率いるカンボジア人民党(CPP)が与党としてこの国を治めてきた。彼は、クメール・ルージュ(1975年~79年の大虐殺を行った)[訳注:カンボジア共産党を中心とした勢力の別名で、米国の傀儡であったロン・ノル政権を倒して1975年にカンボジアを支配した]の司令官[訳注:地方大隊の司令官]のひとりでもあった。野党は公式に認められた存在で、政治的な異議を唱えたり市民社会の活動も許容されている。しかし、その動きは常にCPPによって監視され、許容範囲はかなり狭められてきている。

昨年、CPPの主要なライバルであるカンボジア救国党(CNRP)のカリスマ指導者サム・ランシーは、10年間で3度目となる亡命を余儀なくされた。その他の野党メンバーは、殴打され、嫌がらせを受け、恣意(しい)的に逮捕されている。そしてまたNGOと市民社会に対しては、先日の有名な5人の人権活動家が容疑をかけられ拘束されたこと(国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチは「茶番」だと述べた)からも分かるように、締め付けがより強まっている。

これらの政治家や活動家よりは目立たないが、カンボジアには強制立ち退きと極度の貧困に直面した人々がいる(その数は2000年から80万人に上ると推測されている)。彼らは、政府関係者と治安部隊、その関係企業によってもたらされた土地収奪促進政策の犠牲者である。このカンボジアの土地収奪に関しては、調査記録書類が国際刑事裁判所に提出されている。その書類には、国を支配するエリート層によって行われているこの違反は、人道に対する罪に匹敵するものである、という主張も含まれている。

グローバル・ウィットネスなどのキャンペーン団体は、海外投資家はこのような状態を警告と受け止める必要があると注意を促す。カンボジアへの最大の投資家は中国で、建設プロジェクトの大半に中国企業が名を連ね、この国は中国の地政学的な影響範囲によりしっかりと組み込まれつつある。中国が騒動のもとになるとは思えないが、この国の疑問が残る開発援助方針が、長年の西側の支援国で最大の貿易相手国(英国と米国)に再考を促すかもしれない。◆

by ゾー・ホルマン

データ 170530Flag_of_Cambodia.jpg


首相:サムデック・フン・セン(国家元首はノロドム・シハモニ国王)
経済:1人当たりの国民総所得(GNI)は1,020ドル(ベトナム1,890ドル、フランス4万2,960ドル)
通貨単位:リエル
主な輸出品:衣類、木材、ゴム、米、魚類、タバコ
観光業の重要度が徐々に高まっている。年間の訪問者数は、前回のプロフィール調査時(2007年7月)と比べて2倍以上の450万人で、観光産業での雇用も50万人となり、主に女性が働く衣料関連産業と製靴産業の従事者数60万人にも近づいている。政府予算の3分の1を海外援助でまかなっている。
人口:1,560万人。人口増加率は年2.2%(1990~2015年)。人口密度は1平方キロメートル当たり88人(フランス122人)
保健:1,000人当たりの1歳未満児死亡数(乳児死亡数)は25人(ベトナム17人、フランス4人)。妊産婦死亡の生涯リスク[訳注1]は210人に1人(フランス6,100人に1人)。HIV感染率0.6%。
環境:現在カンボジアでは、世界最悪レベルのペースで森林破壊が進む。1990年に73%だった森林被覆率は50%を下回っている。原因のほとんどは、土地の使用権などの許認可と違法な森林伐採である。国の主な水路を提供しているトンレサップ湖は、大規模ダム建設と魚の乱獲に苦しめられている。
民族:公式には96%がクメール民族だが、実際には中国系、ベトナム系、イスラム教徒のチャム民族で約10%を占める。特にチャム民族に対する差別が広範囲に見られる。
宗教:仏教徒が公式には90%を超え、わずかながらイスラム教徒も存在する。
言語:公用語はクメール語で、そのほかに少数派の言語も使われている。

人間開発指数[訳注2]:0.555で、188カ国中143番目(ベトナム0.666、フランス0.888)。

訳注1:妊娠や出産時、あるいはそれに関連する病気で死亡する生涯にわたるリスクのこと。妊産婦死亡率は1回の出産に対するリスクとなるため統計の取り方が異なる。
訳注2:各国の人間開発の度合いを測るための経済社会指標で、国連開発計画の「人間開発報告書」で毎年詳細が報告される。指数は0から1で示され、1に近いほど個人の基本的な選択肢が広く人間開発が進んでいるとされる。

NI五つ星評価
(前回の評価は2007年7月)

とても良い★★★★★
良い    ★★★★
普通    ★★★
悪い    ★★
ひどい   ★


所得配分 ★★
カンボジアは、20年にわたる経済成長を経て、低所得国から低中所得国の仲間入りを果たし、貧困削減目標も達成した。しかし、依然として国民の18%が1日2.5ドル未満で暮らしている。
2007 ★

平均寿命 ★★★
69歳(ベトナム76歳、フランス82歳)。
2007 ★★

女性をめぐる状況 ★★
カンボジアの議会における女性の割合は現在20%だが、日常における女性たちの社会、政治、経済への参加は保守的なジェンダーの規範によっていまだに限定的である。性的な暴行やドメスティック・バイオレンスの割合は、東南アジアで最も高い。
2007 ★★

自由 ★★
多数のメディアが存在するものの、報道機関はほとんどが与党やその関係企業の所有となっている。抗議活動は理屈の上では合法だが、デモは多くの場合強制的に解散させられ、活動家や野党政治家への脅迫や拘束が日常的に行われている。
2007 ★★

識字率 ★★★
74%。これまで長い間低かったが、徐々に改善されている。初等教育就学率は95%に向上。
2007 ★★

セクシャルマイノリティー ★★★
同性愛は合法だが、ノロドム・シハモニ国王のセクシャリティに関するフェイスブックのスキャンダルが示すように、偏見と差別は根強い。援助国に促されたカンボジア政府は、LGBTの権利と認知度に関する支援策を行っている。
2007 ★★★


NIによる総合評価

政治 ★★
CPPは、選挙民主主義という衣装をまといながら、ベテラン政治家フン・セン首相の取り巻きたちによって作られた政府を維持している。汚職がはびこり、地域の最も弱い人々は法律をあてにすることはできず、日常の市民の権利は無視されるか容赦なく侵害され、それが顕著なのが土地収奪問題である。CPPが脅迫、強要、プロパガンダの戦術をより強めていく傾向が見られ、最近では人々の不満が噴出して動きが活発化している。
2007 ★★

2017年4月号NII501「Populism rises again」から「Country Profile: Cambodia」の翻訳です。


  1. 2017/05/30(火) 23:40:04|
  2. 国・地域

【各号紹介】2017年5月号「Freedom in sight?(西パプアの自由と解放)」


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一般の日本人がパプアと聞けば、ほとんどの人がパプアニューギニアを思い浮かべるだろう。そして西パプアと聞けば、そのパプアニューギニアの一部と思うかも知れない。

しかし西パプアとは、インドネシアに属する西パプア州とイリアンジャヤ州のことである。日本の面積の2倍あまりもある大きなニューギニア島の西半分がこの西パプアで、東半分がパプアニューギニアだ。
  地図(Free West Papua Campaignウェブサイトへ)

19世紀にオランダの植民地となった西パプアは、第2次大戦後もインドネシア領とはならずにオランダの管轄下にあった。インドネシアがオランダに西パプアを手放すよう強く求める一方で、オランダは1952年に西パプアの自治権を認め、その後の独立も保証した。「西パプア」という国名と明けの明星をあしらった国旗が公式に決まったが、結局は深まる冷戦の対立の中でインドネシアを西側につけるため、やらせの国民投票によって西パプアは正式にインドネシア領となった。

インドネシアは、独立への動きだけでなく、その帰属に異を唱える者を弾圧し、西パプアのアイデンティティーを否定してインドネシア化を進めてきた。

今月のNIでは、ほとんどニュースになることのない、しかし深刻な人権侵害状況の中で暮らし、闘う人々の現実と彼らの声を伝える。

2017年5月号 No.502「Freedom in sight?(西パプアの自由と解放)」目次へ 170630nijlogo.jpg

Keynote(主要記事)の翻訳はこちら




  1. 2017/05/25(木) 01:43:00|
  2. ≪各号≫紹介

【翻訳記事】狙われる環境活動家(メキシコ)


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殺害されたイシドロ・バルデネグロ・ロペス(一番右)
画像をクリックするとゴールドマン環境賞のページが開きます


ほとんどのメディアは、メキシコで増加している麻薬関連の殺害の中でも、耳目を集める大量殺人に注目する。例えば、ゲレロ州で43人の教育実習生が「行方不明になった」事件や、観光客が不幸なことに銃撃戦に巻き込まれた事件だ。このうちの後者としては、普段は平和なユカタン半島のプラヤデルカルメンで1月に開催された大規模な国際電子音楽祭のバーにおいて、5人の無関係な人々が射殺されたという事件があった。しかしあまり知られていないところでは、活動家、特に環境活動家の計画的殺人が、ほとんどの場合は目立たない地方で起こっている。このような殺人を計画してカネを払った連中に、裁きが下ることはない。

1月にまさにそのような事件が起こった。犠牲者は、メキシコ先住民の活動家で、ゴールドマン環境賞[訳注:環境保護に功績のあった草の根活動家に送られる賞]受賞者のイシドロ・バルデネグロ・ロペスである。彼は、出身地のチワワ州のシエラマドレ地域で、古代の森林を違法伐採から守る活動を行っていた。51歳のバルデネグロは、南チワワの遠隔地にある叔父の家を向かう途中に銃で殺害された。ぶれることなく環境キャンペーン活動を行っていた彼は、その活動のために殺害予告を受け、地元から他の場所へ避難したこともあった。1980年代には、今回と同じ森林伐採の脅威に反対していた彼の父親が暗殺された。ガダルーペ・カルヴォ地域では、昨年このほかに4人の活動家が殺害されている。

栄誉あるゴールドマン環境賞は、南の国々でのリスクの高い草の根レベルでの組織化を行っている人々に贈られることも多い。彼らが行っているのは、資源開発経済を支配する者たちが起こす略奪的開発行為から、自然環境の搾取を防ぐための活動だ。近隣のホンジュラスで別のゴールドマン環境賞受賞者であるベルタ・カセレスが、物議をかもしているダム開発に反対していたため殺されてから、まだ1年もたっていない。明らかになっている世界の環境活動家の殺害は、75%近くが中南米で起こっており、2014年以来、116人が殺されている。◆

by リチャード・スイフト

2017年4月号NI501p9 Murders most foul (MEXICO) の翻訳です。



  1. 2017/05/07(日) 10:11:00|
  2. 暴力・平和・人権