NIジャパンブログ

【翻訳記事】黒い金がとれる国の貧困


shopworker.jpg
サウジアラビアの店員
by edward musiak (CC BY-SA 2.0)

「裕福なサウジ」。この2つの単語は常に結びついているように思える。しかし、ポール・アアツとキャロライン・ローラントは、ほとんど隠されている別の現実に光を当てる。

オンライン番組Mal3ob3lena(Malob Aleyna、私たちはだまされているの意)で、ドキュメンタリー「サウジアラビアの貧困」が放映された。これは、首都リヤドの郊外5キロメートルにあるスラムに住む極端に貧しい人々を取り上げた内容だ。

荒れ果てて密集している家々、不衛生な通りにはゴミが散乱し、ぼろを着た子どもたちが遊んでいるが、中にははだしの子どももいる。

地元のイスラム教の指導者は、子どもたちは町で麻薬を売るために利用されていると語った。さらには、純粋に生活のために、父親は自分の娘たちに売春をさせている。

このドキュメンタリーで扱った内容は、2011年の放映の数週間後に監督が刑務所送りになるほど微妙なものだった。

しかしまた、「給料だけではやっていけない」というハッシュタグで実施されたツイッターのキャンペーンも、2013年夏の最初の2週間で1,000万回ツイートされ、黒い金がとれる国の貧困に注目を集めるものとなった。

統計

サウジアラビアと言えば、膨大な原油埋蔵量や、宮殿のような豪華マンションを米国、スペイン、ロンドンに所有するスーパーリッチのエリートがいることで知られている。

しかし、ひとり当たりの国内総生産(GDP)は5万2,300ドルで、近隣のカタール(13万7,200ドル)やクウェート(7万700ドル)、アラブ首長国連邦(6万6,300ドル)ほどの金持ちではない。
[訳注:日本のGDPは3万6,230ドル(2014年)]

だが、国内の収入格差は劇的なほどだ。

サウジの1世帯当たりの収入は月3,800ドルで、1世帯の平均人数は6人である。

社会サービス省の公式統計によれば、貧困ラインは1カ月あたり480ドルとなっている。ダーランにあるキング・ファハド石油・鉱物大学の主要な経済学者のひとりは、独自に計算を行った。「政府の統計はまったく信頼できません。私は、国民の35%は月533ドルよりもずっと少ない額でやっていかなくてはならないレベルだと考えています。彼らは貧しいのです」

これらの数字は、先日リヤドで行った経済専門家たちとのインタビューでも確認された。

極貧生活の人々もいて、そのような人々はアジール、ジザン、ナジランなど顧みられることのない地方に暮らすが、大都市に暮らす人々もいる。リヤドのアルスワイジ、ジャラディヤ、アルシマイシや、ジェッダのアルカランティナ、アルロワイス、アルサラマといったスラムについては、どこも同じような状況で劣悪な評判が耳に入る。そこには極貧のサウジ人だけでなく、外国人労働者も住んでいる。いくつかの情報源によれば、外国人労働者の平均的月収は266ドルだという。

スラムの端を通る町の中心に向かう道路沿いでは、主に体を覆った女性の物乞いの姿が日常の風景となっている。また、Youtubeにアップされた別のドキュメンタリーでは、サウジ人女性が慈善団体の建物の外で自分の状況を説明している様子が写されていた。彼女は、離婚した4人の娘たち(それぞれ4人~7人の子どもがいる)と一緒に老朽化した家にぎゅうぎゅうの状態で住む。この家族の月収は372ドルだが、家賃は298ドルに値上げされた。彼女は言った。「他の人々のように食べ、暮らしてみたいのです」

移民労働者と失業中のサウジ人

貧困問題の大部分を占めるのは雇用問題である。公式統計では、失業率は男性11.7%、女性32.8%と比較的低い。しかし専門家は、オフレコではより高い数字を口に出す。石油企業ARAMCOの上級幹部(匿名を希望)によれば、それは27~29%近くで、20~24歳の若者では33%に増加しており、24~29歳では38%となっているとのことだ。

もし人口の3割を占める900万人の外国人労働者を帰国させれば、もしかすると貧困問題は解決するのかもしれない。いや、そういう話は机上の論理だ。現実は違う。失業者中のサウジ人が、外国人労働者が従事するような仕事に必要な技能や意欲を持っていることはまれである。

長い間政府は、外国人労働者の人数を制限してサウジ人の就労者を増やそうとしてきた。その解決のために、10年前に外国人の割合を人口の5分の1に削減することを決めたが、それは現在のところうまくいっていない。

チュニジア、エジプト、近隣のイエメンの不満を抱えた若者たちが政権を倒そうと町に繰り出した2011年以降、サウジではHafiz(激励)やLiqaat(遭遇)など、雇用者とサウジ人求職者を結びつけるためのさまざまなプログラムが行われた。Hafizプログラム参加者には、仕事に就くまで月400ドルの手当が支払われる。特にNitaqat(領域)プログラムは、外国人労働者をサウジ人に置き換えることを目的としたものである。

2015年12月『サウジ・ガゼット紙』は、民間セクターでは170万人のサウジ人が働き、同セクターの労働力の17%に上ることを報道した。これは、公共セクターの2倍である。

女性肌着とサッチャリズム

ジェンダー不平等、そして厳しい文化的、宗教的な分離の規則のせいで、女性の労働者の割合は人口比とは不釣り合いに低くなっている。しかしこの問題も、Gloworkという就職支援会社を立ち上げた若き起業家カリド・アルコデイアーが取り組んでいる。

彼は、女性肌着店の販売員として女性を雇うところから始めた。聖職者たちから猛反発があるものの、政府はこれを容認している。先日のインタビューでアルコデイアーは、民間セクターで働く女性の数が2010年の4万8,000人から2015年には50万4,000人に増えたと誇らしげに語った。保守的な家族の抵抗も、何としても必要とされる給料を娘たちが持って帰ってくるようになるにつれ消えていった。

Gloworkの成功にもかかわらず、サウジ人の多くが悲惨な状況に直面しており、そしてまた直面し続けていくことになるだろう。

保健医療と教育は、質が低いこともたびたびだが、確かに無料である。また最近までは、水、電気、ガソリンは高い割合で補助金が投入されていた。

しかし一般的なサウジ人にとって、状況は悪化しつつあると言えるだろう。新たな緊縮予算が発表されたが、原油価格の急落によって生じる赤字の可能性をにらみ、補助金は削減されている。

皮肉なことに、サウジ人が買う際のガソリン価格が50%値上がりし、懸念はすでに現実となっている。間もなく水と電気もこの後に続くだろう。

これらの方針は、最貧層に最も重くのしかかりそうだ。英国の『エコノミスト』誌のインタビューにムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子は、「補助金の恩恵を受けているのは中流層以下の20%である」と述べているが、これは現実を直視していないものだ。

彼は、彼の政策は「サウジアラビアにとってのサッチャー革命」考えてもいいものかと尋ねられた時、「まさにその通り」と答えた。
[訳注:サッチャリズム(Thatcherism)とは、1980年代に英国のサッチャー首相が実践した経済再生のための処方箋で、財政規律、民営化、規制緩和などで小さな政府を目指した。]

もしもそうなのであれば、サウジアラビアの持たざる人々にとって、今後の見通しは厳しい。

-----
ポール・アアツは、オランダのアムステルダム大学で国際関係学を教えている。キャロライン・ローラントは、オランダの日刊紙『NRC Handelsblad』の中東担当として30年のキャリアを持つ。この2人の共著で昨年”Saudi Arabia: A kingdom in peril” (Hurst, 2015)が出版された。

2016年3月号NI490p20-21「Poverty in the land of black gold」の翻訳です。cover490.jpg





  1. 2016/04/09(土) 22:13:00|
  2. 貧困・格差
  3. | トラックバック:0

トラックバック

トラックバック URL
http://nijapan.blog.fc2.com/tb.php/8-3701ba95
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)